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2007.03.29

〔新鷹会〕の勉強法

長谷川伸師の没後1年余、七保(なお)夫人が、活字になっていない草稿があるといって門下の村上元三さんたちへ示されたのが『石瓦混肴』と表題のついた紙塊である。私家版としてまとめられた。

〔新鷹会〕〔二十六日会〕の勉強法が、こんなふうに書きとめられている。

私どもの勉強のやり方の一つに、批評はいらない、必要とするものは”助成”の案の持ち寄りである、というのがある。
一番いいことは、立派な批評と、人それぞれの助成案とが、抱きあわせになって出ることだが、かなり大人でないとこれは出来ない芸なので、作品の助成に主力をそそぐ、というやり方を専らやってきた。

(かなり大人でないと---)というところで、胸にトゲがささったように痛みをおぼえた。
じつは、二十代前後に、ある同人誌のメンバーだった。
月1回だか隔月だかに合評会を持った。
痛烈、苛酷な批評が行き交った。いや、批評というのもおこがましい。50年の歳月をおいていま振り返ると、揚げ足取り同然の、幼稚な批判の山積みにすぎなかった。
その試練のなかから、よくもまあ、谷沢永一さんや開高健くん、向井敏くん、牧羊子さんが世にでたものだ。

もし、長谷川伸師のような方が、合評会をいましめ、指導してくださっていたら、もっと多くの作家や詩人や歌人が育っていたかもしれない。若気のいたり、痛恨の反省---いまさら追っつかないのだが。

120_10 〔新鷹会〕〔二十六日会〕が池波正太郎という作家の成長に、どれほど資したか、想像している。
いや、長谷川伸というふところのひろい師の恩恵がなによりの栄養であったろう。

( 『石瓦混肴』は、朝日新聞社刊『長谷川伸全集』第12巻(1972.5.15)に収録されている。図版は同巻の扉)。

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209長谷川 伸」カテゴリの記事

コメント

西尾先生がいらした同人誌は「同年代切磋琢磨型」、新鷹会は「師匠善導型」なんてカテゴリーをでっち上げそうになりますが、池波さんには新鷹会で「過酷な批評」をするような同年代の「ライバル」はいらっしゃらなかったのでしょうか?

投稿: えむ | 2007.03.29 09:16

新田次郎さん、プロデューサーの市川久夫さん(鬼平ビデオなどを一手に手がけた)などかいらして、会がおわってから、五反田の喫茶店で終電近くまで、話あったようです。
そこが池波さんの「同年代切磋琢磨型」だつたのでしょうね。

平岩さんは女性だったし、伊東昌輝さんは若すぎたか。

投稿: ちゅうすけ | 2007.03.29 10:27

今更ながらですが、巨匠の「よこはま白話」を読んでおります。
二代目松林伯円について書かれたものが収められていると聞いたもので・・・
実は若林義籌について調べていて行き当たったのが二代目伯円でして、妙な所に漂着してしまいそうです。
ウィキペディアにも載っていたのですが、
二代目伯円の伯母が若林義籌に嫁ぎ、その縁で隠居後の若林義籌と二年くらい同居して「養子のようなもの」になっていたようです。伯円も本名は若林義行と名乗っていたようです。(本人が明治になってから語ったものを速記者が書き留めたものも確認)
鳶魚翁の「御所役人」話のことをどなたかが、「まるで講談」と仰っていましたが、まさしくあれは講談、講釈だったのではないかとも思えてきます。
鳶魚翁も長谷川伸先生も講談、講釈に相当造詣が深かったようですね。
鳶魚翁が多く出典にされたものに実録体小説があり、それは講談のタネ本にもなったのだとか・・・
長谷川伸先生の記述では、伯円を引き取った伯母の夫のことを検証され

「佐渡年代記」をみると若林は市左衛門義籌で・・・

とまで書いてくださっていて、感動しました。今と違ってネットもない、図書館なども充実していなかったかもしれない中、限られた史料で検証されようとしていたのに胸を打たれました。
おそらく寛政譜なども翻刻したものが図書館に装備されていなかった時代かもしれません。先人の苦労をしのびつつ・・・

ただ伯円の談話によると初代伯円の妻は「京都の医師の娘」ですが、長谷川先生の「よこはま白話」では「仙石左京の娘」とされており、その典拠が今となってはわからないのが残念です。
仙石騒動まで到達するとは思わなかったです。

投稿: asou | 2010.03.12 14:51

ぼくの自慢(?)の一つは。平岩弓枝さん、伊東昌輝さんの許可をえ、長谷川伸師の書庫を撮影し、ホームページにあげたことです。
http://homepage1.nifty.com/shimizumon/dig/hasegawa_syoko/hasegawasyoko_sanko.html

投稿: ちゅうすけ | 2010.03.12 19:08

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