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2009.06.11

〔からす山〕の松造(4)

七輪の鍋の具はほとんど消え、汁けだけになっていた。
それを七輪ごと、階段口の廊下へはこぶと、お(りゅう 32歳)は、銕三郎(てつさぶろう 26歳)の耳に口を寄せると見せかけて、ついと横にきた。

(てつ)さま。〔野田屋〕へ、賊がどこから侵入したか、お教えします」
指をとってまさぐりながら、
「お(すぎ)がうった手妻(てづま 手品)なんです。店屋の2階の者たちが寝いっているのをいいことに、打ち合わせた時刻に大戸のくぐりの戸締りをはずしておき、己れは寝床へ帰り、賊にしばられたのです」

「なるほど、それなら、難なく押しいれる」
「賊は、火盗改メ方の考察をまどわすために、みんながはいってから、戸締りを元どおりに締めたのです」

は、銕三郎の手を八ッ口へみちびき、豊満な乳房をにぎらせた。
掌の下で、乳房が大きく盛りあがったり、引いたりする感触を、銕三郎はたのしんだ。
そのうち、指が乳首をまさぐりはじめると、躰から骨が抜けたようにもたれかかった。

「せつない。お口を吸いたいけれど、漱いでいないから---」
足を曲げたり伸ばしたりし耐えながら、ささやく。
さまがお嫌でなかったら、おいでになってもいいのですよ。終わりかけていますから---」
「ここでか?」
首をふり、
「湯のあるところで」

銕三郎は乳房から手を抜き、気力をつくして断った。
「またのことにしよう。下の入れこみに、下僕の松造(まつぞう 20歳)を待たしている」
「〔白駒(しろこま)〕の幸吉の探索ということで、保土ヶ谷あたりまでお出張りになることはおできになりませんか?」
「できそうなら、どこへ報らせたらいい?」

は、銕三郎の太腿を袴の上からまさぐりながら、あちこち考えている。
(かつ 30歳)にも小浪(こなみ 32歳)にも知られたくない。
といって、〔五鉄〕や〔盗人酒屋〕では銕三郎が困る。

「通旅籠町(とおりはたごちょう)の〔山科屋〕の帳場ではいかが?」

参照】2008年5月31日[〔瀬戸川〕の源七] (

「三日のうちに---」
「保土ヶ谷の旅籠へは飛脚をだします」
「なにも、わざわざ保土ヶ谷まで遠出することもあるまい」
「いいえ。夫の敵をさがす兄嫁と、助太刀の弟武士に扮した旅をしましょう」

が、顔をあげてた唇をねだったとき、階段の下から、松造の声がした。
「若殿。妙な奴が、さっきからこの店をうかがっておりやす、おります」

「お。いいというまで、この部屋から動くでない」


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