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2009.07.12

佐野与八郎政親(2)

佐野与八郎政親(まさちか 41歳 1100石)は、西丸・目付になって満5年近くになる。
目付という職掌がら、口が重い。

その政親は、弟あつかいをしている銕三郎(てつさぶろう 27歳)に、父・平蔵宣雄(のぶお 54歳)が京都西町奉行に取り立てられる風評が、すでに西丸の上層部でもひそかに流れていると漏らしたばかりか、この京都行きには、幕閣から内々の密命がこめられるらしいことを、暗に告げた。

帰宅した銕三郎は、まわりに人の気配がないことをたしかめ、宣雄に話すと、
「番方(ばんかた 武官系)できたわしに、役方(やくかた 行政官系)がつとまるとはおもえぬ」
宣雄は否定はしないで、勤務がきびしいことを匂わせた。

「それはそうでしょうが、番方から役方にまわられた衆は少なくありませぬ。げんに、京都西町ご奉行・太田播磨守正房(まさふさ 59歳 400石)さまも、わが家とおなじ両番の家筋です」
宣雄は、言っても仕方がないとおもったのであろう、太田正房は、実は分家・支家一門の多い水野の家系の五左衛門忠意(ただもと 享年35 500石)の次男で、太田家に養子に入り、そこのおんなを妻したことまでは、教えなかった。
女系のことをいうと、嫁・久栄(ひさえ 20歳)にも、奥どうように遇してきている銕三郎の母・(たえ 47歳)にも、余計なおもわくを与えることもばかったこと。

銕三郎は、そうした父の思慮にまではおもいがいたらない。
なおも、京師東町奉行・酒井丹波守忠高(ただたか 61歳 1000俵)も両番の家筋だから、父上が任命されても不思議はないと言いはる。
よほどにうれしかったのであろう。
ついでに口をすべらせた。
佐野の兄上は、老・若(老中・若年寄)方から、特別任務が密命されようとも---」

(てつ)。口が軽すぎるぞ。与八郎どのは、伊達に目付をなされてはおらぬ。そのような極秘の大事をお漏らしになるとはおもえぬ」
「あ。父上はご存じなのですね?」
「しらぬ。か、京の極秘のことといえば、だいたいのところは推測がつく」
「わかりました。詮索はいたしませぬ」
「もし、わしが京の町奉行に引き上げられたとしても、おそらく、に、手つだわせるわけにはいかない密事であろう。忘れよ」
「はい」
「そのこと、2度とふたたび、口にだしてはならぬ。久栄に話すことも禁じる」
「断じて---」

「話はかわるが、仮に、仮にだ、わしが京へ赴任することになったとして、久栄はどうするな?」
宣雄は、生後3ヶ月初女孫・於初(はつ)をかかえての道中を案じているのである。

「首がすわるまで、同道は無理かとおもいます」
「かわいそうだが、来春まで、留守番をしてもらうことになろうな」
「拙はお供をします」
「あたりまえだ」
これで、銕三郎は、父・宣雄の京都町奉行は、風説ではないことを確信した。

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(京都西町奉行の前任・太田三郎兵衛正房の[個人譜])

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