跡目相続、申し渡しのご奉書(2)
宇都宮藩への橋渡しは、老中・田沼主殿頭意次(とのものかみ 55歳 3万石 相良藩主)の用人・三浦庄司(しょうじ)に頼んだ。
火盗改メ・赤井越前守忠晶(ただあきら 47歳 1400石)の例繰方・白石恭太郎(きょうたろう 30歳)同心が調べてくれた引継ぎ用件書留め帳には、〔乙畑(おつばた)〕の源八(げんぱち)なる盗賊の手配書きは載っていないとの報告を、使いに行った松造(まつぞう 22歳)が持ち帰っていたからであった。
【参照】2009年12月11日[赤井越前守忠晶] (2)
江戸で盗(つとめ)をしていないなら、在方を襲っているであろう、乙畑村(現・栃木県矢板市乙畑)からでて、絹糸や絹織物でうるおっている町や村で仕事をしているにちがいない、近いのは宇都宮城下とふんだ。
「何をお知りになりたいのかな?」
「喜連川(きづれがわ)藩内生まれの〔乙畑〕の源八(げんはち)と申す盗賊が、深溝(ふこうず)・松平さまのご領内で盗みをはたらいているかどうかをお聞きしたいのです」
「あいかわらず、捕り物がかわりですな。よほどにお好きとみえる」
笑いながらも、宇都宮藩の在府用人・羽太(はぶと)喜太夫(きだゆう)につなぎをつけてくれた。
羽太用人のいい分では、
(さほどの件で、わざわざ、上屋敷(数寄屋橋内)へお越しいただくには及ぶまい。書状でお申し越しいただけば、当役の者にいいつけ、お返事する)
とのこと。
早速に、書状をしたためた。
宇都宮城下、および下野(しもつけ)国内の塩谷、河内郡、出羽(でわ)国村山郡、陸奥(むつ)国信夫(しのぶ)郡、常陸(ひたち)国多賀郡の領内で、この3、4年のうちに、〔乙畑〕の源八なる盗人一味とおもわれる、やや、多額の盗難届け出があったら、お教えいただきたい、その首領について、いささか懸念の儀があるので、火盗改メ・赤井越前さま組の次席与力・脇屋清吉どのと連名でお伺いする。なお、ご公儀領内でその賊の所業があったばあいには、貴藩へお報せするに、やぶさかではない---といった趣旨のもので、直臣としての威も、ちらつかせないではなかった。
届けた桑島友之助(とものすけ 40歳)の口頭によると、相手の応対は丁重で、誠意が認められたとのことであった。
これは、もう、待つしかない。
しかし、そのうちにも、おまさ(17歳)が盗みの毒に冒かされてゆくような気がして、いらだちはかなりあった。
気づいた久栄(ひさえ 21歳)がからかうような口調で、
「銕(てつ)さまは、おまささんのこととなると、まるで妹あつかいですからね」
「久栄にとっても、手習いの愛弟子(まなでし)であろうが---」
「はいはい。そのとおりでございます。私も心配で、心配で---」
舌をちょろりと出して肩をすくめた。
おまさが演じたしぐさでもあった。
【参照】〔〔高畑(たかばたけ)〕の勘助〕 (4)
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