お勝と於津弥(2)
平蔵(へいぞう 30歳)が剣術指南ををつけてきた菅沼藤次郎(とうじろう 12歳)は、鍛錬熱心の甲斐があり、筋力も脚力のついてき、面がまえもたくましくなっていた。
「もう、道場に通っても、同じ年齢の者たちにひけをとることはない。いや、むしろ、藤次郎どののほうかが勝さっていよう」
はげまたした上で、指南は月に1日にするといいわたし、母者を呼ぶよう命じた。
藤次郎の母・於津弥(つや 36歳)は、お勝との湯殿での全裸の化粧指南で、平蔵への興味がきれいに消えており、顔をださなくなっていた。
年齢には見えない艶のました顔であらわれた於津弥に、藤次郎に告げたことをくりかえすと、用人を呼び、召使いに茶を用意するようにいいつけてくるようにと遠ざけ、
「ほんに藤(とう)は、男らしゅうなりました。姉が湯殿をつかうのを、覗き見するのでございますよ」
心得た召使いが、2ヶの湯呑みに冷酒を満たして持すると先に含んでから、
「おささは、お勝どのお仕込みです。すこし酔いかげんのほうが頂上が長びくと---」
大身の奥方なら口にしないようなことまで洩らした。
(そろそろ、お勝の引きあげどきだな)
用人から束脩(そくしゅう)を受けとった足で、日本橋通箔屋町の〔野田屋〕へまわり、お勝(34歳)を浮世小路の蒲焼〔大坂屋〕へ呼びだした。
「於津弥どのを、奥で使っている召使いの立役に仕込むんだな」
微妙な笑みをうかべたお勝が、
「4人で遊ぶには、あのお屋敷の湯殿は狭すぎましょう」
「本所四ッ目に別宅があるということであった。湯殿でなくてもよかろう」
「銕(てつ)さまは、いつ、いらっしゃったのですか?」
「行くわけはない。むこうが誘っただけだ」
「やってみますから、うまくいったら、ご褒美をくださいますね?」
「お乃舞(のぶ 16歳)に殺されるぞ」
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