本城・西丸の2人の少老(2)
「4つの合併組は、それぞれ、昼夜わかたずに次の場所へ詰めます」
弓の2番手と6番手は第1の地盤 への備えとして伝通院。
(伝通院・部分 『江戸名所図会』)
鉄砲(つつ)の2番手と6番手は蔵前と浅草あたりの備えとして元鳥越の寿松院。
台東区鳥越2丁目にある不老山寿松院
鉄砲の7番手と17番手は南伝馬町の町会所。
鉄砲の19番手と西丸の4番手は深川八幡宮。
(富岡八幡宮舟着き 『江戸名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)
弓の7番手と鉄砲の9番手は少老の手兵として清水ご門外のご用屋敷に待機。
「それぞれの詰所から の出動は、それぞれの組の責任者が決めます。なお、以上は組屋敷からの三度々々の食事の運びこみも考慮したうえでわけふっておりますゆえ、勝手ないいたてはご免こうむりたく」
「承知」
平蔵はたくみに言質(げんしち)をとってしまった。
「各組への下知はなるべく早くおくだしください。逃がし道や扇動人の捕らえおきどころを決めねばなりませぬ」
「逃がし道――?」
松平玄蕃頭忠福(ただよし 46歳 上野・小幡藩主 2万石)が訊きかえした。
「戦いと申しましても、殺しあいが狙いではありませぬ。いってみればおっかけっこみたいなものです。そのためには逃げ道を教えてやることも必要になります」
「おっかけっこ、のう――」
「はい。一度は逃げておき、またぞろ顔をだしましょう。その輩(やから)をおどすには、人相をひかえたと教えてやればいいのです」
「長谷川うじは、軍者ができそうじゃな」
「打ちこわし方の軍者にやとわれましょうか?」
井伊兵部少輔直朗(なおあきら 41歳 越後・与板藩主 2万石)が笑いながら、
「それはならぬぞ。軍者の職であれば、わが与板藩でやとうおう」
「扶持はおいくらいただけます?」
「うむ。100石」
「いまでも400石と足(たし)高1100石を頂戴したおります」
「本家の彦根藩へ話しても、その半分しかだすまい」
「では、この話はなかったことに――」
「承知」(笑声)
とにかく、平蔵とすれば、話の糸口はついた。
「ところで長谷川うじ。今宵、予定ははいっておるかの?」
「いいえ……」
「玄蕃頭(げんばのかみ)侯との初会ということで、どこぞ、下賎で安くておいしいものところへ、案内してくれぬか」
「お殿さまに珍しいものといいますと、しゃも鍋などはいかがでしょう?」
「朝鮮料理は、今宵といって今宵はむりなのじゃったな」
「あれの食材がそろいましたら、いの一番に与板侯へお知らせします」
「ざんねん。では、そのしゃも鍋とやらを、八ッ半(午後3時)にでかけられるように」
すぐに松造(よしぞう 36歳)を〔黒舟〕と〔五鉄〕へ走らせた。
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コメント
その後、息をつめるようにして推移を見守っておりました。
驚いたことに、なんの変化もなく、いつものように進展しています。ご病気はほんとうなんでしょうか。私たちがのせられていて、ご病気も小説のうちの一つかと信じたくなっています。
どうかご無理をなさらないでいつまでもおつづけください。
それにしても、平蔵さんのアイデア、いつものとおりですね。
投稿: 文配りの丈太 | 2012.05.03 16:15
>文配りの丈太 さん
おこころづかい、ありがとうございます。
病気も創作ごとならいいのですが、そうではありません。5行書いたらベッドに横になって休み、また起きて書くといった毎日です。
でも、これは執念ですから。
投稿: ちゅうすけ | 2012.05.04 11:06