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2012.06.12

平蔵、初仕事(11)

使用人たちが寝泊りしている2階の3間つづきの表に面した手代たちの部屋である。

番頭の菊三(きくぞう 51歳)通いで夜は近くの自宅なので、尋問からはずされていた。

留め方同心・高井半蔵(はんぞう 39歳)の訊きとりをうけているのは、2人の手代・又八郎(またはちろう 22歳)と喜代治(19歳)で、3人の小僧は、隣の窓のない中の間で待たされていた。

小僧たちには密偵・〔南百(なんど)〕の駒蔵(こまぞう 36歳)がつき添い、私語を禁じ、同じ問いかけをされるからよく聴き、述べる言葉をきちんとかんがえておくようにいいきかていた。


高井次席の問いの1:賊に襲われるまでの1ヶ月のあいだに卯右衛門夫婦に代わった挙動はなかったか?
又八郎「変わったとは――?]
:食事のすすみぐあいとか……
「食事はわたしども使用人とは別です」
:挙措ふるまいとか訪ねてきたものとか……
「旦那さまのことを観ているわけではない――」
:たとえば店の金を使ったとか……
「金庫の中のことは手前どもにわからない仕組みになっている」

高井の問いの2:同じく1ヶ月のあいだに不審な客はなかったか? たとえば、ふだん買っている銘柄を変えたとか、量が増えたとか、初めての客が何回も訪れたとか――?
「懐が暖かいときに量をふやすのはいつものことで、誰れそれとはいえない」
「蔵元を変えるのは、こちらがすすめたときだ」

高井の問いの3:この店の掛け売りの〆で当月末、翌月末、節季ごとの割合は? とりわけ、この大晦日払いになっていた総額はいかほどか?
「掛け売りの上限と〆日はわたしたち手代で決めていいが、それぞれの割合は番頭でなければわからない。この大晦日払いの額も番頭しか知らない」

高井の問いの4:出入り口は幾つあるのか? その出入り口に不審の細工跡はなかったか?
喜「表と裏庭に一つずつ」
又「細工の有無はお役人のそちらさまがお調べになった」

高井の問いの5:店主夫妻の寝所に店の者が集められたということだが、全員か? 洩れた者はいないか?
「…………」
「お丹(たん)婆さん がいなかったようにおもう」
:お丹――?
「飯炊きの老婆」
「でも、朝はちゃんと飯を炊いてた」

高井の問いの7:賊たちは揃いの盗み支度であったか? 各人がそれぞれであったか? それぞれであったのでれば、おぼえているその装束は?
「灰色の頭巾はそろいで、装束はそれそぞれだが、黒っぽい着物と裾しぼりの袴が野良着のように見えた」
「裏返しに着ていたようだ。裏がわに盲縞の柄が見えたのがいた」

高井の問いの9:賊たちの脚許は?
「紺足袋に草鞋(わらじ)」
「それも、真新しい草鞋」

高井の問いの10:賊たちが話した言葉や脅した言葉になまりはかなかったか?
「気がつかなかった」
「帰りぎわに首領株の男に話しかけた男の言葉に秩父なまりがあったような気がした」
:なんと話しかけた?
「御手洗(みたらし)にけえろ」

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