平蔵、初仕事(12)
「遅くなりました」
戻ってきた組を代表し、与力・小島与大夫(よだゆう 38歳)が謝った。
「なに、ぎりぎりまで働いたということは、それだけの実りがあったからであろう。苦労をかけた。さ、聴かせてくれ」
平蔵(へいぞう 42歳)の大仰な迎えぶりに、かえって恐縮しながら、
「友蔵(ともぞう 30がらみ)を見た者は見つかりましたが、本人はもぬけのからでした」
生家の近所の者たちの証言Iこ、この2ヶ月ばかり、針ヶ谷村の生まれた家のまわりをぶらぶらしていたが、3ヶ日まえから姿を消したという。
平蔵が目で、昨日、今日と旅籠まわりをした〔南百(なんど)〕の駒蔵(こまぞう 36歳)と〔越生(おごせ〕の万吉(まんきち 23歳)呼んだ。
2人の密偵が前でると、
「事件のあった夜、50過ぎの婆さんと、30すぎのいい男が夜中に部屋をとった旅籠が、仲町のまわりにあったろう?」
万吉がうなずいた。
「鈴木同心といっしょに行き、その前にも部屋を使っているはずだから、そこのところを調べてくるように――」
「みなも、もう、わかったとおもうが……」
苦笑しながら種あかしをした。
〔針ヶ谷〕の友蔵はおんなだましの泥棒なのである。
盗賊団がこれと目をつけた家の中で、欲求不満のおんなをみつけ、手だてを構じて近づき、躰のわたりをつける。
おんなが離れられなくなったころあいに、外泊をもちかける。
おんなはみんなが寝静まった時刻にそっと戸締まりをはずして抜け出す。
そのあと、賊たちははずれされたままの出入り口から侵入し、盗(つとめ)をおこなう。
引きあげるときは、ことさらにその戸をくく゜り抜ける。
一同が合点したあとで、高井同心が問うた。
「御手洗(みたらし)にけえろ――は、なんと解釈いたしましょう?」
「おお、それか――[御手洗にけえろ]は手代の聴きまちがいであろうよ。おんなだましのことを、あの者たちの隠語で、女(め)誑(たら)し、とも呼ぶ。゜[めたらしに消えろ]といっておきますとでも、首領に告げたのではないか」
同心が膝を打った。
「侵入の手口はわかりました。しかし、盗賊一味の正体がまだはっきりしておりません」
小島次席与力が憮然とした表情でつぶやいた。
「おう、そのこと、そのこと。夕餉(ゆうげ)がすんだら、みなもかんがえてくれ。われは旧友と呑む約束があるので、ちょっと失礼する」
松造(よしぞうに 36歳)に合図して席を立った。
残された一同は、
「さすがはお頭だが、いったい、と゜こで〔針ヶ谷〕の友蔵を掘りだしてこられたのであろう?」
「昨夕もだが、今朝、共にでかけた若い美女は何者?」
「今夕の行く先は? 尾行(つ)けていって、発覚(ばれ)たらことだしなあ」
口々にいいあっていた。
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