平蔵、初仕事(9)
午後の組みあわせ は、平蔵(へいぞう 42歳)の組が、留め方同心・高井半蔵(はんぞう 39歳)、密偵は〔南百(なんど)〕の駒蔵(こまぞう 36歳)、それに松造(よしぞう 36歳)で、被害店〔大調(おおづき)屋〕卯右衛門方の訊きとり直しにあたった。
次席与力・小島与大夫(よだゆう 38歳)の組は、廻り方同心・鈴木重平太(じゅへいた 26歳)、密偵・〔麦塚(むぎづか)〕の瀬兵衛(せべえ 42歳)、〔越生(おごせ)〕の万吉(まんきち 23歳)が〔針ヶ谷(はりがや)〕の友蔵(ともぞう 35,6歳)の訊きこみということで、昼餉(ひるげ)を早々とすませ、街道を北へ向かった。
〔大調屋〕の組は、出かける前に、前日に卯右衛門方の聞きとlりを書きとった高井同心に、そのおおよそを口上させ、平蔵が疑念を糺(ただ)した。
その1:賊に襲われるまでの1ヶ月のあいだに卯右衛門夫婦に変わった挙動はなかったか?
そのことを店の者に訊いたか?
高井同心の応え:確かめていなかった。
その2:同じく1ヶ月のあいだに不審な客はなかったか?
たとえば、ふだん買っている銘柄を変えたとか、量が増えたとか、初めての客が何回も訪れたとか?
高井同心の応え:確かめていなかった。
その3:〔大調屋〕の掛け売りの〆で当月末、翌月末、節季ごとの割合は?
とりわけ、この大晦日払いになっていた総額はいかほどか?
高井同心の応え:確かめていなかった。
その4:出入り口は幾つあるのか?
その出入り口に不審の細工跡はなかったか?
高井同心の応え:全部を調べたわけではないが、調べたのに不審はなかった。
再質問:調べたといえる出入り口は幾つか?
高井同心の応え:賊が帰り口に使った表戸の一つだけ。(失笑)
その5:卯右衛門夫妻の寝所に店の者が集められたということだが、全員か? 洩れた者はいないか?
高井同心の応え:全員という返答であった。洩れた者については確かめなかった。
その6:〔大調屋〕は店の者による火の用心、戸締りの用心の家中夜廻りを何時に行っているか?
高井同心の応え:確かめなかった。
その7:賊たちは揃いの盗み支度であったか? 各人がそれぞれであったか? それぞれであったのであれば、おぼえているその装束は?
高井同心の応え:確かめていなかった。
その8:卯右衛門は短刀でおどされたということだが、大刀を帯びていた賊はいなかったか?
高井同心の応え:確かめなかった。
その9:賊たちの脚許は?
高井同心の応え:確かめなかった。
その10:賊たちが話した言葉や脅した言葉になまりはかなかったか?
高井同心の応え:確かめなかった。
高井同心の応えを聴きとったあとで平蔵がみんなに申し渡した。
、
「われのいまの問いかけについて、今夜でも夕食をすませてからでも思い出して、高井同心を助けて、長谷川組流の訊きとり作法としてまとめておくように。なに、ほかにも訊きとりのツボはあるから、みなであとで足していけばよい。1ヶ月もあれば、あらまし、まとまるであろうよ」
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