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2005.01.31

浪人・近藤勘四郎

『鬼平犯科帳』文庫巻3---『オール讀物』へ連載が始まって1年9カ月目に発表された篇。初めて奥方・久栄が主役をはるとともに、その過去があきらかにされる。久栄の過去にかかわっていたのが、旗本(250石)の近藤家の嫡男・勘四郎だったが、24年前、久栄も家や両親をも捨て、吉原遊郭で金を奪ったうえに殺傷を行い、遊女と駆け落ちした。

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年齢・容姿:このとき---寛政5年(1793)、40代半ば。みにくく肥え、あぶらの浮いて酒光りのした顔貌。往年のすっきりした美男の面影はどこにもない。
生国:]武蔵野国江戸・本所(現・東京都墨田区緑4丁目)。

探索の発端:鬼平が一時、火盗改メの任を解かれ、京都へ亡父の墓参へ出かけてい、目白台の留守宅を守っていた久栄のもとへ、文がとどいた。
かつて、17歳だった久栄の乙女の証しを奪って捨てた、旗本の嫡男・近藤勘四郎からのものであった。
指定の茶屋へ出向いた久栄(41歳)は、勘四郎にきつい言葉を投げつけ帰るが、それは久栄をおびきだしておいて、養女のお順(6歳)を誘拐さるための罠だった。

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(護国寺 『江戸名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)
久栄は護国寺前の子育稲荷脇の茶店へ呼びだされた。

知らせをうけた与力・佐嶋忠介以下が、中間の鶴造がたしかめてきた勘四郎の隠れ家を襲う。そこにはお順も隠されていた。

結末:近藤勘四郎は磔刑。

つぶやき:この篇には2カ所の読みごたえシーンがある。
その1.近藤勘四郎にギスものにされた久栄との初夜のこと、

 久栄が両手をつき、平蔵に問うた。 
「このような女でも、ほんとうに、よろしいのでございますか---」
「このような女とは、どのような女なのだ?」
「あの、私のことを----」
「きいたが、わすれた」

今日のように、ヴァージニティがはすやばやと喪われる時代、若い人たちには、このような会話の価値は認められないのかもしれないが---。

近藤勘四郎をぴしゃりと拒絶した久栄のやりようを聞いた鬼平が、

「怒るな。いやみを申したのではない」
「申しあげまする」
「何じゃ?」
「女は、男しだいにございます」

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コメント

「女は、男しだいにございます」
言ってみたいセリフの一つです。

でも、この逆も眞なのでは?

「男は、女しだいよね」

投稿: 加代子 | 2005.01.31 08:30

「女は、男しだいにございます」
にしても、
「男は、女しだいよね」
にしても、
相手を喜ばす情緒調セリフとしては的を射ていますが、このところの女性は、自己実現というのか、自立しているというのか、自己を確立している人が多いから、「男しだい」じゃない面が強いのでは?

むしろ若い男性の一部に「男は、女しだい」のところが色濃いかも。

投稿: ちゅうすけ | 2005.01.31 09:45

「むかしの男」からの手紙をもらった時、久栄さんが
どんなに動揺したか察せられます。

20年以上も噂すら、聞いていなかったので、今どんなになっているかわかりませんから。

現在の勘四郎の姿を見て、過去の恨みは一度に吹き飛んだことでしょう。

あるのは嘲りと蔑みのみで、さぞかし溜飲がさがった事とおもいます。

それは、やはり平蔵が飛びぬけて立派な夫だったから
でしょう。

「女は男しだい」今まではだいたいそうでしたよね。
でも、男にしろ、女にしろ相手によって、自分の
人生がきまるなんて。

次世代は男性しだいじゃない自己を持った女性が
増えるでしょう。

でも、私も一生に一度位「女は男しだいでございます」
と、言わせるような男性に巡りあいたいですわ。

投稿: みやこのお豊 | 2005.01.31 13:02

近藤勘四郎はビデオでは近藤唯四郎となっています。 それにしても久栄に扮した多岐川裕美さんの演技は好きですね。
久栄「長谷川平蔵に代わって、お話を承りましょう」
唯四郎「むかし男が懐かしく思わないのか」
久栄「馬鹿なことを」
唯四郎「始めての男は忘れないものらしいが、お手前は別らしいの」
久栄「馬鹿なことを、早く御用とやらを承りましょう」
むかしとは全然立場が違うことを印象ずけようとしています。
多岐川裕美さんの表情も良いですね。

投稿: edoaruki | 2005.01.31 22:59

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