« 〔伏屋(ふせや)〕の紋蔵 | トップページ | 〔倉渕(くらぶち)〕の佐喜蔵 »

2005.03.12

〔蛇(くちなわ)〕の平十郎

『鬼平犯科帳』文庫巻2の巻頭に収録されている[蛇(くちなわ)の眼]の主人公の盗賊の頭目。

202

年齢・容姿:46歳。才槌頭(さいづちあたま)の小男。眼の光が冷たい。
生国:摂津(せっつ)国大坂・西横堀本町(大阪府大阪市西区西本町?)の印判師の息子。

探索の発端:〔蛇(くちなわ)〕の平十郎一味7人は、寛政3年(1791)6月20日夜、土地の人たちが〔道有屋敷]呼んでいる橘町の医家・千賀道栄の邸宅へ押し入った。道栄の祖父で先年まで将軍の侍医だった千賀道有の遺産を狙ったのである。
皆殺しに近い荒業だったが、〔蛇〕一味が狙っていた金銭はほとんど無かった。道栄が寸前に幕府へ献金してしまっていたからだ。
一方、文庫巻1〔座頭と猿〕で姿を消した座頭の彦の市が、愛宕山の水茶屋の女おそのの躰を忘れかねて現れるのを、気長に見張っていた同心・酒井祐助が、姿を見せた彦の市を捕らえ、〔蛇〕一味の犯行が発覚した。

結末:彦の市の自白により、火盗改メは、小田原から西へ2里(約8キロ)ほどのところの水之尾にある〔蛇〕一味の盗人宿を急襲、平十郎のほかはその場で斬殺。平十郎は市中引き廻しの上、火あぶりの刑。

つぶやき: 〔蛇〕の平十郎の本名は井口与兵衛で、先記したごとく、大坂の印判師・井口林右衛門の一人息子で、甘やかして育てられた。
「他人をゆるすことを知らず、他人を容れることを知らず、助けられたことぬだけを知って助けることを知らぬ」人間になってしまった。
父が急死したあと、ほかの男と情をかわした母を許すことができず、2人を惨殺して逃亡。流浪中に盗賊に拾われてその世界に入った---と、一人の男が盗賊に転落していく経緯がのべられている数少ない例。

『オール讀物』誌上へのシリーズの連載が始まって半年目あたりの篇で、その当時、池波さんは、連載を1,2年で終えるつもりでおり、登場する盗人の数も少ない。そのゆえに、一人々々のヒューマン・ヒストリーを念入りに創作していたといえる。
〔小房〕の粂八、しかり。〔蓑火〕の喜之助、しかり。
(参照: 〔蓑火〕の喜之助の項)

〔蛇〕の平十郎の火刑だが、もつとも重いこの処刑が盗みと殺人犯にも適用されるのだろうか。放火犯だけとおもっていたのだが。

|

« 〔伏屋(ふせや)〕の紋蔵 | トップページ | 〔倉渕(くらぶち)〕の佐喜蔵 »

126大阪府 」カテゴリの記事

コメント

蛇の古語で「くちなわ」があります。 その他「なばむし」などとも言われていますが、不吉なもの、執念深いものなどの例えとされ、人々に嫌われています。 私は例外の好きな方ですがあの独特の匂いは好きではありません。 蛇(くちなわ)の平十郎は小男とされていますが、人間の悪行は今に始まったことではなく、昔もあったのでしょう。 最初に自分の母親と情夫を惨殺してから殺しの規範的なけじめは無くなったと思われます。 最近の連続殺人もその例に漏れません。 事件があってから付近の人は「あの人は挨拶もよくしておとなしく、そんな人とは思わなかった」と評します。
 いくら善人振っていても、躯に染み込んだ悪の芽は無くならないのでしょう。

投稿: edoaruki | 2005.03.12 13:57

>edoaruki さん

ぼくは鳥取市の生まれで、その近郊の村々で育ちましたが、それらの村々では「くちなわ」といっていました。古語ですかねえ。

蛇は、臭いよりも、あの形状・文様・色彩が嫌でした。大蛇に巻かれて締めつけられる夢をよく見ました。寝着のせいと気がつき、パジャマをやめて、サックドレス・スタイルのずん胴のに変えました。

えーと、小男と悪業とは、関係があるのでしょうか?

千賀道栄がうっかり「小さい人」と、〔蛇(くちなわ)〕のコンプレックスをつついたために、キレたのでしょうね。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.13 08:39

藤沢周平さんの『蝉しぐれ』の冒頭に、青年藩士の牧文四郎が、やまがらしを殺したものの、手についた蛇の臭いに辟易する話がでていますね。

蛇がそんなに臭いとは、しりませんでした。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.14 15:09

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/70984/3264930

この記事へのトラックバック一覧です: 〔蛇(くちなわ)〕の平十郎:

« 〔伏屋(ふせや)〕の紋蔵 | トップページ | 〔倉渕(くらぶち)〕の佐喜蔵 »