テレビ化で生まれておまさと密偵
[12-4 密偵たちの宴]という痛快篇。
密偵レギュラー陣の〔大滝〕の五郎蔵(50代)、〔小房〕の粂八(41)、伊三次(36)、彦十(62)、〔舟形〕の宗平(70代)、紅一点----おまさ(37)が酒盛りをする。
(参照:〔大滝〕の五郎蔵の項)
(参照:〔小房〕の粂八の項)
(参照:伊三次の項 )
(参照: 〔舟形〕の宗平の項)
いずれも元正統派ということになっているだけに、当節の盗人たちの畜生ばたきをののしり、酔うほどに奴らに模範演技を示してやろう、となる。
物語の経緯と結末は小説にまかせるとして、鬼平における密偵の存在は、史実にものこっている。
政敵の森山源五郎孝盛などは、長谷川平蔵の密偵使いを鬼の首でもとったみたいに非難する。
この仁は死の床にあった平蔵に代わり臨時の火盗改メに任じられ、前官冷遇(?)を地でいった。
家禄は平蔵と大差のない中の下あたりだが、冷泉家の門人で短歌を詠んだから、和歌好きの老中首座:松平越中守定信に気に入られた。
いまならさしあたり大学の弁論部の先輩後輩で閣僚入り----いや、芸は身を助けるのほうがあたっている。
森源の平蔵批判はこうだ。平蔵はたしかに泥棒をつかまえる天才だが、公儀が禁止している密偵をしこたま働かせてのこと。泥棒が発生しないようにするのが肝心で、それには聖人の道を講義したらいいと。
いやはや、孔子や孟子をきかせて泥棒を減らそうというのは、泥棒を見てから縄をなうはなしよりも迂遠だ。
密偵をつかった盗人逮捕がいけないのは、公儀が禁止しているからの一点ばり。
密偵にもよい密偵とけしからぬ密偵がいるはず。
幕府が禁じたのは、町奉行所や火盗改メの権威をカサに悪をはたらく岡っ引きのはずだ。
ひきかえ、『鬼平犯科帳』のおまさや伊三次は颯爽としているし、畜生ばたらきを心から憎んでもいる。
ところで[密偵たちの宴]に出席の密偵レギュラーは、彦十と粂八をのぞくと、おまさ以後に登場した面々。つまりはテレビ向きの善玉密偵。
先代・松本幸四郎丈(のち白鸚)を平蔵役としてテレビ化が決まったとき、圧倒的な女性視聴者を考慮した制作側が池波さんへ熱望したのが、画面にいつも顔を出しているヒロインだった。
主婦のパートづとめがはじまっていた時期だった。キャリアウーマン(?)で、平蔵に淡い恋ごころを抱いているおまさを、池波さんは創造した。
初代は富士真奈美さん、中村吉右衛門丈=鬼平では梶芽衣子さんが演じた。「おまさ以後」とはこのこと。
妻君には感謝はしているがときに鼻にもつくこともある中年男性とすれば、恋ごころにも似た好感をずっと持ってくれている女性が社内にいると思うだけで、出勤する意欲も出るというもの。
かつて俳優:長塚京三さんがサントリーのウイスキーのCMで、女性の部下から慕われる管理職役を演じたが、その幾篇かは『犯科帳』の鬼平&おまさからアイデアを借りたフシがある。
現実にみのらせると始末に困る、中間管理職の希望的幻想にすぎないのだが。
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