〔横川(よこかわ)〕の庄八
『鬼平犯科帳』文庫巻13に所載の[熱海みやげの宝物]に登場する盗人。大坂が本拠の〔高窓(たかまど)の久兵衛が卒中で死んだ。その〔甞役(なめやく)〕をつとめていた〔馬蕗(うまぶき)〕の利平治につきまとって〔甞帳(なめちょう)〕の所在をさぐりとろうとしている、高橋九十郎配下の者。
(参照: 〔馬蕗〕の利平治の項)
年齢・容姿:30男。色白。でっぷり肥えている。
生国:遠江(とおとうみ)国豊田郡(とよたこおり)横川(現・静岡県浜松市横川)。
ただ、〔高窓〕一味のテリトリーが上方であることを考慮に入れると、庄八は上方へくだるよりも、知り合いの多い江戸へ伝手を求めそうな気もする。
とすると、加賀(かが)国石川郡(いしかわこおり)横川(現・石川県金沢市横川)の線もすてがたい。金沢と京都経済圏とは遠いようで近い。
探索の発端:熱海へ湯治に来ていた鬼平夫妻、密偵おまさと彦十の宿へ、〔馬蕗〕の利平治が〔横川(よこかわ)〕の庄八とともに現われた。
むかしなじみの彦十へ利平治が打ち明けた。
庄八はじつは、〔高窓〕一味を乗っとった盗人浪人・高橋九十郎の配下で、オレにおため顔をしているのだと。
〔小沼(こぬま)〕の富造というのがひそかに、庄八に連絡(つなぎ)をつけているのがその証拠だとも。
高橋一味のねらいは、〔高窓〕の2代目の久太郎の居所をつきとめて殺すこと、利平治が隠している〔甞帳〕を取り上げること。
鬼平は、江戸へ行くという利平治の身の安全を請け負った。
結末:程ケ谷宿の手前の権太坂で、刺客が現われたが刺客は鬼平に斬って捨てられ、庄八は彦十たちに捕まった。
つぶやき:盗賊一味の内実も、ふつうの組織となんら違わず、権力あらそいの巣みたいなもの。欲が強ければ強いほど、勢力と金をにぎろうと画策する。そこをいかにも現実的な味つけで描くのが、池波さんの腕のふるいどころ。
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コメント
私にとって「熱海みやげの宝物」には二つのメモリーが有ります。
池波さんが亡くなられて失意の時[オール読物6月臨時増刊号・池波正太郎の世界(1990年6月25日発行)]が刊行され飛びつくように購入したこと。
そして池波正太郎三大シリーズ傑作選が掲載、鬼平では
「五年目の客」「あきれた奴」「おれの弟」ともに
この「熱海みやげの宝物」が選ばれていたこと。
あと一つはこの臨時号に先生が「池波さんの江戸を歩く」というエッセイをお書きになっていて切絵図、江戸名所図会、江戸買物独案内が紹介されて新鮮さを覚えたこと。
先生は文章の最後で
「池波さんの小説が、筋書きでも、人物でも、背景でもリアリティを保っているのは、細部までに気がくばられているからだ」とそして
「犯科帳、梅安、剣客商売」のシリーズから、江戸の表情を無限に汲みとることができる」とも。先生は前年89年の7月臨時増刊号にも「江戸ショッピング案内」をお書きになってます。
これには「江戸買物独案内」が詳細に紹介されてます。
盗賊には直接関係がありませんが。
投稿: 靖酔 | 2005.04.18 09:10
>靖酔さん
池波さんが亡くなられてすぐの『オール讀物 6月臨時増刊号・池波正太郎の世界』(1990年6月25日発行)]に、ぼくに割り当てられたの主題は、[鬼平のダンディズム]でした。
その前---生前の池波さんの責任編集『オール讀物 鬼平犯科帳の世界』(1989年7月臨時増刊号)で、池波さんのネタ本の一つが『江戸買物独案内』であることを明らかにしていたのです。
池波さんは、
(いやな奴)
とお思いになったかもしれません。
ところが、次の靖酔さんがお引きの臨時増刊号のときには、『江戸買物独案内』はほかの人が使って、ぼくには新たに「ダンディズム」。
いやあ、困りましたね。当時、朝日新聞日曜版に「男のおしゃれ」を10年ばかり連載していたせいでしょうか。
そうだ、ブログに「盗人のおしゃれ」「盗人のダンディズム」を添えますか。
投稿: ちゅうすけ | 2005.04.18 12:18