〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵(その2)
〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵は、鬼平直属の密偵群のなかでも、キー・メンバーの一人である。
この人の生国の推理にあたり、まず、池波さんが座右に置いてつねに開いていた恩恵の書---吉田東伍博士『大日本地名辞書』(明治33-)を参照にした。
「大滝」という村名は、
・大和(現・奈良県吉野郡川上村)
・近江(現・滋賀県犬上郡多賀町)
・紀伊(現・和歌山県伊都郡高野町)
・越前(現・福井県今立郡今立町)
・越中(現・富山県西砺波郡福岡町)
・美濃(現・岐阜県不破郡垂井町)
・信濃(現・長野県下高井郡野沢温泉村)
・武蔵(現・埼玉県秩父郡大滝村)
・上総
・羽前(現・山形県最上郡小国町)
・羽後(現・秋田県大館市)
---の11カ所あった。
うち、『新記』を引用したものを、自分で勝手に現代文に直して読んだ、武蔵国秩父郡大滝村の文章につよく魅かれた。
秩父郡の山奥は、山々の峰が四方八方に聳えて平地はなく、耕しているのはすべて火耕(焼畑)の畑である。
栽培がいかに困難かは、種蒔きの春期から初冬のころまでは、山をへだて谷をこえたそれぞれの畑へ掘立小屋を結び、夫妻母子がばらばらにはなれて移り住み、実が熟す時期になると、昼は猿を防ぎ、夜は猪や鹿を逐って声をあげ、板木を鳴らさなければならないので、朝まで眠ることができない。
野生の獣のなかでも、猪と鹿の害がもっとも多いため、各家に四季、鉄砲や猟師筒を備えている。
それでも、収穫は半年分ほどしかまかなえない。橡(とち)の実や栗でおぎなっているありさまだ。
住民の姿態をみるに、ほとんどの者が髪はそのまま伸ばし、髭などものびるにまかせており、裾のみじかい単衣で、冬はそれを重ね着してすごしている。(後略)
読んだ池波さんの頭にも即座に、口べらしのために村を出て、盗賊団に身を投じた五郎蔵の姿が思い浮かんだろう、と推測した。
(その1)に記した、滋賀県多賀町の富之尾の記述のことを聞くまで、ぼくは目を、ずっと、秩父の大滝村にそそぎつづけており、大滝村長にいくたびか問い合わせたが、返事はなかった。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
多賀町の大滝神社を先に取材したので、4月に入ってついに腰をあげた。西武池袋線の特急(1時間ごと)で[西武秩父]駅まで約1時間半。飯能からは単線で谷間を縫う。幾重もの谷間ごとに小川があり、鉄橋をわたる。
杉林が車窓へ迫ってくる印象は、会津若松への行程に似ていた。
秩父鉄道[御花畑]駅へ移り、1時間に1本の電車で[三峰口]へは25分ほど。
これまた1時間に1本きりの西武バスで、[大滝総合支所]へ。
荒川べり沿いに造られた道を上流へ遡行。両岸は道はともかく、ぎりぎりまで山がせまっている。
奇岩巨石を洗う水流は、ここで瀬となり、かしこでぼくが小学(国民学校)1年生のときに泳ぎをおぼえたような淵をつくる。
「奥秩父」とはよくぞ名づけた。
バスの運転士に「村役場で降りたい」とつげると、「大滝総合支所で下車です」との答え。「?」と思ったが、下車すると、庁舎の前に「閉村の碑」が。
村役場前だったバス停も名前が変わった
大滝村時代のなごり。花はシャクナゲ、木は橡(トチ)、鳥はコマドリ
大滝村は、この4月1日に、埼玉県秩父市大滝に変わっていたのである。
http://www.city.chichibu.saitama.jp/
五郎蔵のころは、武蔵国秩父郡大滝村で、東西に15キロものびた平地のない寒村だつた。
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コメント
ものすごいリポートですね。
要した費用と時間を試算してみただけでも、頭がさがります。
お金と手間のかかったこういうブログを、居ながらにして読ませていただけるなんて、法悦のかぎりいです。
今後とも、よろしくお願いします---といったのでは、虫がよすぎますね。
投稿: 文くばり丈太 | 2005.04.16 17:35
>文くばり丈太さん
〔大滝〕の五郎蔵のリポートの諸がかりと手間、お認めいただき、さすが、と思いつつ、深謝。
あと、10カ所以上を訪ねてからと思っていたのですが、250人暫定目標の半ばへきたので、急遽、アップしました。
今後とも、お目とおしくださいますよう。
投稿: ちゅうすけ | 2005.04.16 18:57
ちゅうすけさん
わたくしも文ぐばり丈太さんと同じ感想です。
投稿: edoaruki | 2005.04.16 23:49
>edoarukiさん
ご声援に感謝。
探究心は、まあ、業みたいなものでしょうか。
投稿: ちゅうすけ | 2005.04.17 04:02