〔入間(いるま)〕の又吉
『鬼平犯科帳』文庫巻19に収められている[逃げた妻]は、下谷・坂本裏町に住む浪人・藤田彦七(34,5歳)とその妻りつ(28歳)の物語である。
りつは、家に碁をうちにきていた同じ浪人・竹内重蔵に誘惑され、夫とむすめ(7歳)を捨てて出奔した。
藤田彦七と同心・木村忠吾は酒友だちである。湯島天満宮裏門前の酒場〔次郎八〕で知り合った。
そして藤田の妻から「助けてほしい、許してほしい」との手紙がきていることを知らされた。
竹内重蔵と〔入間(いるま)〕の又吉とのつながりは、藤田も忠吾もまったく知らない。
年齢・容姿:年齢の記載はないが、30代とおもわれる。色白で鼻がつんと高い。背丈は尋常。細竹のよう引きしまった躰。身が軽い。
生国:武蔵(むさし)国入間郡(いるまごうり)入間(いるま)村(現・埼玉県狭山市入間町)
(いりま)と読むと、調布市入間町だが、(いるま)とルビがふられているので、狭山市を採った。
探索の発端:木村忠吾から藤田浪人の妻りつの一件の報告を受けた鬼平は、手紙が指定している大塚の波切不動の門前茶店を下見していた。と、西から富士見坂をのぼってくる〔燕小僧〕こと〔入間〕の又吉を見かける。
大塚・波切不動堂(『江戸名所図会』より 塗り絵師:ちゅうすけ)
尾行すると、小石川の氷川神社前の農家に入った。そこには、藤田の逃げた妻・りつのほか、竹内重蔵もいたではないか。
小石川・金剛寺 氷川明神社(『江戸名所図会』より 塗り絵師:ちゅうすけ)
結末:両国の軽業師あがりで急ぎばたらき専門の〔入間〕の又吉は、釘抜きを鼻へくらって昏倒、竹内浪人は頬を切られ、腹に峰撃ちをうけた失神。2人とも捕縛。
つぶやき:〔入間〕の又吉を尾行の途中、鬼平は古ぼけた釘抜きを拾い、あとで又吉の身動きを封じてしまうが、長谷川家の替紋が「釘貫(くぎぬき)」であったことを、池波さんはこの篇のどのあたりを執筆していておもいだしたか。
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