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2005.06.30

〔雨彦(あまびこ)〕の長兵衛

『鬼平犯科帳』文庫巻16に載っている[白根の万左衛門]のタイトルは、そのまま本格派盗賊の首領(72歳)の名前である。
(参照: 〔白根〕の万左衛門の項)
江戸で稼ぎまくってずいぶんと名前を売っていたものだが、鬼平が火盗改メに就任すると同時に、ぴたりと活動をやめた。といっても、盗めをやめたわけではなく、仕事の場を上方から中国すじへ移しただけである。
久しぶりの江戸でのお盗め先(数寄屋橋門外の文具舗〔大和屋〕)の準備がととのった、との知らせが名古屋へ届き、万左衛門は老巧の〔灰谷(はいだに)〕の菊松とむすめ婿の〔沼田(ぬまた)〕の鶴吉をまず下向させ、つづいて自らも麹町6丁目の鞘師の家へ落ち着いたところ、死の病いにとりつかれた。
(参照: 〔灰谷〕の菊松の項)
長くはなさそうというので、配下の者が気をきかせて、名古屋から小頭の〔雨彦(あまびこ)〕を呼んだ。

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年齢・容姿:60がらみ。顔は陽にやけているが、足取りは達者。
生国:「通り名(呼び名)」の〔雨彦〕は、ムカデに似た小さな虫のことである。どこでも見かけるから、生国の推理の手がかりにはならない。
〔白根(しらね)〕一味のNo.2ということなので、地縁を考えた。
万左衛門を信濃(しなの)国上高井郡(かみたかいこおり)白根山麓(現・長野県上高井郡白根山の西麓)の出とした。その近隣の村---小さな虫にかけて、上高井郡の千曲川右岸・小布施(おぶせ)町小布施としてみた。

探索の発端:平河天満宮の鳥居のところで、2人づれの男女を、〔白根(しらね)の万左衛門のむすめのおせき(24歳)と、その婿の〔沼田(ぬまた)〕の鶴吉(30がらみ)だと、密偵〔馬蕗(うまぶき)〕の利平次が鬼平へ告げた。
尾行がつき、麹町の鞘師・梅之助の店が割れ、つづいて下向してきた長兵衛の身元がつきとめられた。
(参照: 〔馬蕗〕の利平次の項)

結末:万左衛門は死の床で、隠し金1,500両ほどの遺(のこ)し金を京都のさる家の仏壇の下へ隠してると、むすめ夫婦と小頭の長兵衛へ告げた。
遺し金を一人占めしようとしたおせきがまず締め殺され、ついで鶴吉が殺されかけたところで、〔雨彦〕グループは尾行していた火盗改メに縛られた。

つぶやき:これまで、右腕とか左腕とか、軍師役などと呼んできたNo.2が、この篇ではじめて「小頭」という呼称を与えられた。
これは、『雲霧仁左衛門』(新潮文庫)へそのまま転用されることになった。

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コメント

[白根の万左衛門]が「オール読物」に載ったのは、1977年4月号。

「雲霧仁左衛門」が「週刊新潮」で連載が始まったのは1972年8月26日号からと、[白根---]の5年前です。
この「雲霧---」かなり始めのほう、新潮文庫p48に、〔木鼠〕の吉五郎が「小頭」と呼ばれています。
ですから、「小頭」という身分が池波さんの頭に浮かんだのは、「雲霧---」のほうが先といえないでしょうか。

ちなみに、1972年秋に書かれた「鬼平---」は、文庫第7巻に収録されている後半の3編です。

投稿: 文くばり丈太 | 2005.06.30 11:52

>文くぱり丈太さん

ご指摘、ありがとうございました。
お説のとおりです。
データを確認しないで、失敗しました。

きょうの〔雨彦〕の長兵衛で、このブログを始めてから198人目---それで、こんなミスをやってはいけませんね。

投稿: ちゅうすけ | 2005.06.30 11:54

長野県小布施町出身のヌマピーです。

生国の推理が面白いと思いました。
白根の万左衛門も、白根山の麓にある万座温泉をもじったものなんて推理もできますね。

それにしても、信濃の国出身者の盗人が多いですね。
確かに一茶などにも盗人イメージがないわけじゃない。
貧乏がなせる技ですかね。

投稿: ヌマピー | 2005.07.13 14:07

>ヌマピーさん

お久しぶりです。

なるほど、万左衛門は、万座温泉のもじりねえ。地元出身者でないとおもいつかない発想です。
さすが!

信濃出身の盗人は、たしかに、多いです。県別では1,2を争います、
が、盗人が多いわけではなく、池波さんの関心が濃いというだけことです。池波さんはエッセイにも書いていますが、とにかく、信濃へよく取材旅行をしているのです。「かぞえきれないほど」と書いていますからねえ。

『真田太平記』の取材もそうです。

ですから、安心して、鍵をかけないでお眠みください。

投稿: ちゅうすけ | 2005.07.13 16:17

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