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2005.05.17

〔灰谷(はいだに)〕の菊松

『鬼平犯科帳』文庫巻16に収録されていて、篇のタイトルにもなっている巨盗[白根の万左衛門]の配下。
一味の一人・菊之助は、7年前に京から江戸へ下ってき、麹町で筆師として仕事場をかまえながら、数寄屋橋門外・弥左衛門町の文房具舗〔玉栄堂・大和屋〕に製品をおさめることをえ、金蔵そのほかの情報を万左衛門へ送っていた。
それなら---というので、老巧な〔灰谷(はいだに)〕の菊松とむすめ婿〔沼田(ぬまた)〕の鶴吉が下向してきた。
万左衛門も江戸へやってき、引き込みには、女賊お芳が〔玉栄堂・大和屋〕へまんまと入り込んだ。
しかし、江戸で発病した万左衛門の病状は重かった。小頭の〔雨彦(あまびこ)の長兵衛も名古屋から呼ばれた。
(参照: 〔白根〕の万左衛門の項)

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年齢・容姿:どちらも記述がないが、老巧とあるから、年齢は40歳代か。
生国:山城(やましろ)国乙訓郡(おとくにこおり)灰谷村(現・京都府京都市西京区大原野石作町)。

探索の発端:鬼平が、亡父を引き立ててくれた小出内蔵助を麹町2丁目に見舞い、帰路、平河天神へ詣でようとした。


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平河天満宮(『江戸名所図会』より 塗り絵師:ちゅうすけ)

そこへ、密偵〔馬蕗(うまぶき)の利平治が、大鳥居の前からこっちへやってくる男女の、男は巨盗〔白根(しらね)の万左衛門一味の〔沼田(ぬまた)の鶴吉で、女は万左衛門のむすめ---と告げた。
(参照: 〔馬蕗〕の利平治の項)
後をつけた同心・木村忠吾と利平治は、2人が麹町6丁目裏の筆師・梅之助の家へ入っていったのを確かめた。
すぐさま、向いの鰻屋〔伊勢屋〕に見張り所が設けられた。

結末:万左衛門が隠匿している1,500余両をめぐって、小頭〔雨彦(あまびこ)〕の長兵衛と〔沼田(ぬまた)〕の鶴吉・おせき夫妻の駆け引きがあり、おせきは夫・鶴吉に絞殺され、鶴吉は〔灰谷〕の菊松も含む長兵衛たちに惨殺された。その現場へ火盗改メが出張ってきていた。

つぶやき:篇中ではまるで役目のない〔灰谷〕の菊松を、なぜ、池波さんは登場させたか。
灰谷村は、近くの現・灰方(はいかた)町、出灰(いずはい)町と同じく、かつて石灰を産したためにつけられた地名という。京都の古い家屋の土間の懐かしい三和土(たたき)の連想から、池波さんは灰谷村をえらんだのかもしれない。

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コメント

ご指摘のように、灰谷の菊松は、ほんとうに活躍しませんね。

でも、わざわざ登場させられたからには、何か、役目があったと考えた方が自然です。

老巧---とあるところから推理、じつは、小頭の雨彦の長兵衛が下向してくるまでのお頭の参謀役、長兵衛が来てからは彼の補佐役だったと見るのは、いかがでしょう。

投稿: 練馬の加代子 | 2005.05.20 16:45

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