〔猿皮(さるかわ)〕の小兵衛
『鬼平犯科帳』文庫巻7に収められている[はさみ撃ち]の主人公は、本郷1丁目の薬種店〔万屋〕の主人・小兵衛こと、元は〔猿皮(さるかわ)〕の「通り名(呼び名)」で、芸州・広島に本拠を置き、中国すじから九州の博多、長崎まで荒らした2代目。7年前に引退し、配下の1人---弥治郎を番頭にすえて〔万屋〕を開いた名代は、せき、たんの妙薬〔黒竜丸〕。
年齢・容姿:70をこえている。小柄。才槌あたまにちょこんと白い髷。柔和な細い眼。歯もほとんど抜けている。卵の黄身をまぶした御飯を日に2度。1合の酒が食生活。
生国:「通り名」の〔猿皮〕は、「猿川」を小粋にいい変えたものとすると、広島の対岸、伊予(いよ)国風早郡(かざはやこうり)猿川村(現・愛媛県北条市猿川)。
立岩川中流の左岸。近くに国津比古命(くにつひこのみこと)神社(八反地)と櫛玉比売命(くしたまひめのみこと)神社がある。後者は物部、風速、越智氏の氏神。
探索の発端:小兵衛とは40歳も年齢が離れているおもんを、貸本屋をよそおっている〔針ヶ谷〕の友蔵(32歳)がたらしこんだ。相棒の〔大亀(おおがめ)〕の七之助(30がらみ)が、〔舟形(ふながた)〕の宗平に助っ人探しを頼んだことから、探索がはじまった。
(参照: 〔大亀〕の七之助の項)
(参照: 〔舟形〕の宗平の項)
結末:おもんの寝間へ忍んで行った友蔵が、内側から戸締りをはずすと、唐辛子入りの目潰しが飛んでき、つづいて薪が。表には、助っ人に化けた鬼平と同心・山田市太郎たちが逃げ道を固めていた。
つぶやき:〔猿皮(さるかわ)〕の小兵衛も、池波さんが創作した個性的な盗人の1人といえる。なにしろ、お盗めにかかるときの興奮にくらべると、「女の躰をいじることなぞ、ばかばかしくて---」と、不倫をしている女房のあのときの声をふすま越しにきいておもしろがっているのだから、枯淡というか、洒脱というか。
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コメント
〔猿皮(さるかわ)〕の小兵衛 と聞くと
中村嘉葎雄さんの顔がすぐ浮かびます。
ストーリーは忘れているんですけどね(笑)
また読み直し&観直します。
投稿: 〔蓮沼〕のしん兵衛 | 2005.08.17 18:07
>〔蓮沼〕のしん兵衛さん
そうでした、テレビでは中村嘉葎雄さんでしたる。
老けづくりもたいしたものでした。
ユニークな元盗人ぶりも飄々としていて---しん兵衛さんの書き込みで、いま、思い出しても笑いがこみあげてきます。
投稿: ちゅうすけ | 2005.08.18 08:39
小説とは全く関係ありませんが、「猿皮」というと狂言の「靱猿」(うつぼざる)を思い出します。
靱(矢を入れる筒状の道具)に猿皮を貼りたいと思っていた大名が猿曳き(ましひき)に猿を譲れと無理を言う話です。
投稿: いくっち | 2005.08.19 16:18