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2005.08.18

〔長尻(ながしり)〕のお兼

『鬼平犯科帳』巻24に収められている[二人五郎蔵]で、〔暮坪(くれつぼ)〕の新五郎へ、女中として入りこんでいる神田・旅籠町の菓子舗〔桔梗屋〕の情報を売り込んだのは、〔長尻(ながしり)〕のお兼だった。
〔大滝(おおたき)〕の五郎蔵のお兼についての評。「あの女は、ひとりばたらきで、これぞとおもうところへ奉公をして、二年、三年も腰を据(す)え、すっかり、中の様子を探(さぐ)り取ってから、口合人(くちあいにん)を通じて、盗(つと)めの頭へ売り込むのでございます」
(参照: 〔暮坪〕の新五郎の項)
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)

224

年齢・容姿:中年。肥っている。
生国:不明。

探索の発端:火盗改メの役宅へ出入りするようになった廻り髪結いの五郎蔵に不審の点が生じ、彼がまわっている本所・花町の蝋燭問屋〔伊豆屋〕と神田・旅籠町の菓子舗〔桔梗屋〕への見張り所が設けられた。
〔大滝〕の五郎蔵がかつて使ったことのある〔長尻(ながしり)〕のお兼が、〔桔梗屋〕の勝手口からあらわれて、男と言葉をかわしているのを見かけた。

結末:〔暮坪(くれつぼ)の新五郎一味が〔桔梗屋〕へ押し入ろうとしてとき、待っていた鬼平に捕縛された。手引きしたお兼も同然。
同時に役宅を襲った浪人たちも、待ちかまえていた辰蔵や酒井祐助、沢田小平次、松永弥四郎などの腕利きの面々に斬りまくられた。

つぶやき:この篇で、池波さんは、ひとりばたらきの〔引き込み〕という新手を考案した。なるほど、その手があったかと感心するとともに、口合人の仕事がまた一つひろがった。盗賊世界も、池波さんの筆にかかって、いよいよ巧緻をきわめる。いそがしいことである。

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コメント

口合人は「鷹田の平十」ですっかりお馴染みになりましたが、助働きの紹介ばかりでなく、嘗役やひとり働きの引き込みの仲介もするんですか。
口合人は盗人達にとって、重宝な存在だったんですね。

いくら盗人といえ、女性の通り名にしては「長尻」なんて気の毒と思いましたが、お兼は五郎蔵さんの説明によれば、狙いをつけたら、何年も住み込んで、探りを入れるとか、名の通り長尻だったんですね。

「白首長尻大根」という品種の大根は、
外観は光沢ある純白で肉付きがよく、肉質は緻密で良く締まっているそうです。

女賊は魅力的な方がいいのですが。


投稿: みやこのお豊 | 2005.08.18 18:17

へえ、「白首長尻大根」なんて名前の品種があったんですか。しらなかった。

みやこのお豊さんの該博な知識に、脱帽。

投稿: ちゅうすけ | 2005.08.18 18:45

〔長尻〕の女の人、いる、いる!
まあ、お兼のばあいは意味がちがうけど。

でも、〔垂れ尻〕でなくてよかった。

粂八つぁんに、〔垂れ尻〕っていわれないように、エクササイズに通っているんだけど。

投稿: 柳原岩井町裏店 おこん | 2005.08.20 04:33

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