〔法妙寺(ほうみょうじ)〕の九十郎
『鬼平犯科帳』文庫巻22は、長篇[迷路]である。主人公の〔猫間(ねこま)〕の重兵衛(50代半ば)のむすめ・お松(27,8歳)が父親・重兵衛へ話しかける。
上方で〔法妙寺(ほうみょうじ)〕の九十郎の手伝いにいっていたからよかったものの、叔父にあたる〔池尻(いけじり)〕の辰五郎のお盗めを助(す)けていたら「いまのごろは、地獄の針の山をわたっていた」ところだと。〔池尻〕一味は、火盗改メに捕まって処刑されていた。
(参照: 〔猫間〕の重兵衛の項)
(参照: 〔池尻〕の辰五郎の項)
〔法妙寺(ほうみょうじ)〕の出番は、上記きりとおもっていたら、物語の半ば、向島の三囲(みめぐり)稲荷社の境内で、密偵〔玉村(たまむら)〕の弥吉の肩をぽんとたたいた九十郎が、江戸での盗めを助(す)けてくれないかといいだした。
(参照: 〔玉村〕の弥吉の項)
三囲稲荷社(『江戸名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)
年齢・容姿:50がらみ。とろりと脂が乗った、血色のよい顔。
生国:山城(やましろ)国相楽郡(そうらくこうり)上有市(かみありち)村(現・京都府相楽郡笠置町大字有市)。
「法妙寺」という地名はない。上方で探して、笠置町の西端に法明寺があったので、とりあえず採った。
探索の発端:すでに記したように、三囲稲荷社で〔玉村〕の弥吉の肩をたたいたときから、探索が始まっていたのである。弥吉は、お熊の茶店〔笹や〕に寄宿していることにして、〔法妙寺〕からのつなぎを待った。
鉄砲洲の薬種店〔笹田屋〕を下見に行った弥吉は、座頭・徳の市が〔笹田屋〕から出てきた。甞役をやっているにちがいない。
湊稲荷社 鉄砲洲(『江戸名所図会』 塗り絵師:ちゅうすけ)
〔笹田屋〕に押しこもうとした〔池尻〕一味は、鬼平の手の者に一網打尽にされていた。
結末:芝・田町7丁目の盗人宿の宿屋〔摂津屋〕に泊っていた〔法妙寺〕の九十郎は逮捕された。
つぶやき:原作は『オール讀物』1983年 5月号から11か月にわたって連載された。『鬼平犯科帳』が始まって15年目だから、愛読者は待ってくれるまでに寛容になっていた。それほどに愛読者は鬼平になじんでいた。池波さんのほうも、章ごとに新しい仕かけ---お松の色好みとか、〔玉村〕の弥吉のすご腕などをちりぱめた。
しかし、第2章[夜鴉]にほんの1行だけ触れられた〔法妙寺〕が、2カ月もおいた第5章[法妙寺の九十郎]の章末にふたたび顔をだし、つぎの章で配下30人も従えて江戸へ集まっているなんて、意表外の展開には、きっと驚いたろう。文庫で読むと100ページほどの時間経過なのだが。
それで、ファンにすすめているのは、雑誌連載のインターヴァルとはいわないが、せめて1篇からつぎの1篇へは2日間ほど間隔をあけて読みすすむと、雑誌連載でファンになった先覚者の気分が共有できるのではないかと。
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