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2005.08.21

〔尾川(おがわ)〕の長次

『鬼平犯科帳』文庫巻18に収録の[一寸の虫]で、火盗改メ方でも一癖のある同心・山崎庄五郎に弱みをにぎられたために、無頼どもや小泥棒の情報を密告している、当人自身も小泥棒の〔尾川(おがわ)〕の長次。
〔不動(ふどう)〕の勘右衛門の配下だった仁三郎は、処刑をまぬがれていまは火盗改メの密偵となっている。その仁三郎が〔鹿谷(しかだに)〕の伴助とであったところを、〔尾川〕の長次に見られてしまった。山崎同心は、手柄を独占しようとして、仁三郎にゆさぶりをかけてきた。
(参照: 〔鹿谷〕の伴助の項)

_18

年齢・容姿:どちらも記述はないが、女房子どもがいるというから、35,6歳か。
生国:駿河(するが)国志太郡(しだごこうり)尾川(現・静岡県島田市尾川)。
紀伊国牟婁(むろ)郡尾川(現・和歌山県熊野市尾川)も考えたが、この地の人の気質に、江戸での小泥棒はにあわない。郷党意識が強いからすぐに徒党を組むはずだ。
ひきかえ、大井川下流左岸の尾川村の出なら人ずれしていようから、つい、追いはぎなどにも手をそめよう。さらに、池波さんはしばしば藤枝市や島田市を取材している。

探索の発端:半年ほど前に、長次が追いはぎをしているところを山崎同心に現行犯逮捕され、密告者となることを条件に釈放された。
他方、仁三郎と〔鹿谷(しかだに)〕の伴助が密議は、かつて属していた〔船影(ふなかげ)〕の忠兵衛への報復だった。
(参照: 〔船影〕の忠兵衛の項)

結末:山崎同心と鬼平との板ばさみに悩んだ仁三郎は、押し込みの現場で、〔鹿谷〕の伴助を刺殺して自刃。

つぶやき:〔尾川(おがわ)〕の長次は、取るにたりないような小者である。そういうほんの端役にまで、女房子どものために生き延のびなければいけないという状況設定をほどこすから、物語が真実味を益す。
生国の項で思案させられたのも、池波さんのそうした配慮をおもえばこそ。

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コメント

>この地の人の気質に、江戸での小泥棒がにあわない。

そのとおり、 でございやさぁ(笑)

ありがとうございます。

私如きが礼を言ってもしょうがないんですが、無性に礼を言いたくなって・・・

投稿: 〔蓮沼〕のしん兵衛 | 2005.08.21 11:00

>〔蓮沼〕のしん兵衛さん

3年前に、〔飛鳥〕で熊野市を訪ねました。熊野権現へ詣でるためです。

下船したため、あとは列車で帰京しました。

いい街だすね、人情も厚いし、神社は荘厳だ。

日本中、いたるところに熊野神社が勧請されています。焼津の熊の神社は、長谷川平蔵の先祖が熊野へ亡命していて、帰るとき、勧請しました。

投稿: ちゅうすけ | 2005.08.23 16:31

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