〔鈴鹿(すずか)〕の又兵衛
『鬼平犯科帳』文庫巻2に収められている[お雪の乳房]で、同心・木村忠吾と割りない仲になってしまったお雪(18歳)の父親・〔鈴鹿(すずか)〕の又兵衛は、余生の一時期を、お雪といっしょに暮らしたいと望み、盗っ人稼業からの引退を考えていた。
その矢先に、お雪を預かっていてくれた亡妻の弟で、浅草・田原町1丁目で足袋屋〔つちや〕を開いている善四郎(40男。じつは元盗っ人の〔鴨田(かもだ)〕の善吉)から、彼女が惚れた相手が、選りによって火盗改メの同心と知らされて大あわて。
(参照: 〔鴨田〕の善吉の項)
年齢・容姿:60歳。顔も躰つきも〔いたち科〕の「川獺(かわうそ)」そっくり。渋紙色でしわの多いちんまりとしてた老顔。細身の小男。
池波さんの「川獺」のイメージは、鳥山石燕『画図百鬼夜行』(安永5年 1776)に拠ったものだろう
生国:伊勢(いせ)国鈴鹿郡(すずかこうり)伊船(ふな)村(現・三重県鈴鹿市伊船町)
「通り名(呼び名ともいう)」の「鈴鹿」を鈴鹿山脈と捉えると、広範囲にわたることになる。『旧高旧領』から「伊船」村を拾って、現在の鈴鹿市出身とした。
探索の発端:〔小房〕の粂八が、偶然に〔鴨田(かもだ)〕の善吉)を見かけたことから、見張りがはじまり、芝・横新町で煙草屋〔しころや〕を装っている〔鈴鹿〕の又兵衛へまで、糸がたぐられた。
(参照: 〔小房〕の粂八の項)
結末:芝・松本町の明樽問屋〔大黒屋〕へ押し込んだ〔鈴鹿〕の又兵衛一味は、待ち伏せていた鬼平たちに逮捕された。
木村同心との仲を裂くべく、お雪を連れた〔鴨田〕の善吉は、つつがなく京へ逃避できたよもう。
つぶやき:〔鈴鹿〕の又兵衛が営んでいる煙草屋の屋号〔しころや〕の「錣(しころ)」は、兜(かぶと)の鉢から左右や後部に垂れている首の保護材の呼称。
鈴鹿山脈の中に「錣峰」と呼ばれる山でもあるのだろうか。それれとも、鈴鹿郡にそういう武具職人のいる村でもあったか。
〔鈴鹿〕の又兵衛一味が盗み装束でそろいの「錣頭巾(しころずきん)」をかぶって押し入ったわけではあるまい。
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コメント
この作品は別件で興味をもちました。
〔鈴鹿〕の の異名が「川獺(かわうそ)」ということです。
ニホンカワウソは現在、絶滅した とされていますが、
この時代には、まだ、元気な姿を見せていたのか・・・
と思いめぐらしたりしました。
それは、さておき
TV( またですが…)では「忠吾なみだ雨」でした。
題名も違えば、最後も違う。
原作のほうが私個人的には好きです。
忠吾の様子が可笑しくてですね。
最後の台詞が「俺も老けたよ」ですよ。
大笑いしました(笑)
投稿: 〔蓮沼〕のしん兵衛 | 2005.09.01 19:44
>〔蓮沼〕のしん兵衛さん
[お雪の乳房]はTV版では「忠吾なみだ雨」ですか。
夜8時代の放送のせいで、タイトルから「乳房」をはずしたのですかね。
夜9時代の放送だった幸四郎(白鴎丈)=鬼平のときは、[お雪の乳房]でしたがねえ。
投稿: ちゅうすけ | 2005.09.02 17:21
>ちゅうすけさん
ぁ、そうでしたね。
明記しておく事項でした。
「忠吾なみだ雨」は吉右衛門丈=鬼平でした。
確かに夜8時台にはマズいのかも知れませんね(笑)
しかも、原作のような終わり方では…
白鴎丈=鬼平の時代の夜9時っていったら、
今の深夜っくらいの感覚ですよね(笑)
白鴎丈=鬼平では、どんな終わり方だったんでしょ?
気になります(笑)
手持ちの資料を見ると、お雪=太地喜和子さんですね!
・・・これまた、気になるところです。
投稿: 〔蓮沼〕のしん兵衛 | 2005.09.02 19:26