下働きの又太郎
『鬼平犯科帳』文庫巻6の巻頭に置かれている[礼金ニ百両]で、不逞浪人と組んで、2000石の大身旗本・横田大学(40過ぎ)の嫡男・千代太郎(12歳)を誘拐、身代金1,000を要求した又太郎は、かつて兇賊〔網切(あみきり)〕の甚五郎の手先だった。
甚五郎一味が捕縛されたあと、又太郎のような下働きは仕事にあぶれて、悪事をおもいつくのだった。
年齢・容姿:22,3歳。骨ばった躰つき。切れ長の両眼は獣のそれのよう。
生国:駿河(するが)国駿府(すんぷ)の外れの安部郡(あべこおり)宇津谷(うつのや)村(現・静岡県静岡市宇津ノ谷)
横田大学の先代が女中もよに手をつけて孕ませたが、妻女・芳乃(現・61歳)が承知せず、もよに10両渡して追い出した。もよは遠縁をたよって駿府へ行き、産みおとしたのが又太郎であった。
駿府でもいい扱いをうけることができず、城下はずれで暮らしたろうから、宇津谷村あたりと推定した。
探索の発端:筆頭与力・佐嶋忠介の叔父・谷左衛門(60過ぎ)は横田家の家老だが、千代太郎の誘拐事件の話をもちこみ、鬼平がかかわることになった。
鬼平は、横田家の家来・山本伊助がかんでいると察して手くばりをすすめた。
結末:浪人2人は鬼平に斬られ、又太郎は逮捕。誘拐犯だから獄門であろう。
つぶやき:誘拐事件を盗賊に結びつけるのに、池波さんは苦労したろう。けっきょく、又太郎をもよの子とすることで、盗みの世界へ入る筋道をつけ、そのあと〔網切〕の甚五郎の下働きという形をとり、前の[兇賊]のときには逮捕の現場にいあわさなかったというような苦しい言い訳を設定せざるをえなかった。
もっとも、この篇の主題は、火盗改メのお頭は、私財の持ち出しをしなければつとまらないということだあろうし、幕府も、裕福な幕臣をえらんで火盗改メに任じたふしがある。
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