木村忠吾を演じた志ん朝師匠の朗読
(掲載誌2006年4月)
志ん朝師匠の朗読CDセット
「おあとは、ご自分で……」
使命感に燃えた部下を働かせるリーダーとしての要諦、生きがいの持ち方、人情の機微、悪が生まれる根源--『鬼平犯科帳』は、池波正太郎さんが小説の形にしてぼくたちへ残してくださった豊潤な世界である。
いや、人によっては失われた季節感の再現を試みようし、気どらない江戸人の暮らしぶりにひたるであろうし、今夜の食卓にはこれをと舌なめりずりをしながら読んでもいよう。
『鬼平犯科帳』はそれほど多面的な楽しみを読み手に与えてくれるからこそ、文庫だけで二、三〇〇万部以上も刷られ、いまや国民文学の一方の雄となっている。
そう、国民文学--つまり大人の国語教科書なのである。しかも楽しく読める、というより自らすすんで読みたくなる国語読本。
含蓄に富んだ会話も、達意の表現も、心底からの笑いや泣かせ方も、すべて教えてくれる。
国語教科書なんだから小学生のときにやったように『鬼平犯科帳』は声をだして読んでみるべきだといおう。
黙読よりも音読のほうが適している小説がある、と喝破したのは池波さんと親しかった司馬遼太郎さんだが、教わるまでもなく、池波さんは文章を戯曲できたえぬいているから、一章書き上げるたびに自分で音読してはリズムを按配していたとしか思えないほど音感的なのである。
音読のお手本には、松本白鴎丈=鬼平のテレビで、木村忠吾を好演した志ん朝師匠の朗読四編がある。
間合いのとり方、会話の使いわけ、音声の高低--『鬼平犯科帳』の新しい次元が目の前に、いや、違った、耳のそばに広がるとは、このことであろう。
さすが、『鬼平犯科帳』に惚れこみ、生まれた息子さんを忠吾と名づけたご仁だけのことはある。
なのに、四編しかないのは、志ん朝さんとしては、
「おあとは、ご自分で……」
といいたかったのだと推察する。お手本としてはとびきり豪勢すぎるが。
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コメント
懐かしいですね。
志ん朝の「鬼平犯科帳」が復活されたのですね。
私は文藝春秋から発売された「カセットテープ」を持ってますが、あの当時志ん朝の人気と鬼平の人気があれば4本でとどまるなんて考えてもみませんでしたが、新潮社もフランキー堺のテープを出し、この二人の競演も聞きものです。
木村忠吾役の志ん朝は絶品でしたね。
忠吾人気はかなり志ん朝人気が後押しをしました。
投稿: 靖酔 | 2006.04.03 09:20
CD4枚組み5200円かあ。
是非Web配信をと思ってしまったのは私だけか。
志ん朝の落語はCDで聴く限り、なんだ、この間は?と気になるものばかりで、鬼平の朗読もさぞかし楽しいのだろう。
投稿: 豊島のお幾 | 2006.04.03 16:51
そういえば先生の解説版入りの橋爪功の朗読がありましたね。今頃になると無性に本所桜屋敷が読みたくなりますが。朗読を聞くのもいいものですね。
投稿: 会津のお熊 | 2006.04.04 11:23
>会津のおくまさん
何年前でしたかね。CBCソニーの依頼で、付録のCDをつくりましたね。
はるか昔の感じです。あれから、うんと、長谷川平蔵の資料を入手しましたから。
投稿: ちゅうすけ | 2006.04.04 18:45