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2006.07.17

一本うどん

「友人たちも、一本うどん なら食べてみたい、としきりにいうんですよ」
一本うどん を試食した[鬼平]クラスの受講者から、よくいわれる。

池波さん の筆の力もあり、 『鬼平犯科帳』に出てくる料理はみんな旨そうで、いたく食欲をそそられる。「白魚と豆腐の小鍋立て」も「こんにゃくの白和(あ)え」「わけぎと木くらげの白味噌和え」も、多くの読者によって試されている。

「軍鶏(しゃも)なべ」や「豆腐の田楽」は、それを売りものにしている店で、財布と相談のうえで口にできる。
どうにもならないのが話題にでている「一本うどん」だった。

  五寸四方の蒸籠(せいろう)ふうの入れ物へ、親指ほどの
 太さの一本うどんが白蛇のようにとぐろを巻いて盛られたの
 を、冬はあたため、夏は冷やし、これを箸でちぎりながら、
 好みによって柚子(ゆず)や摺胡麻(すりごま)、ねぎをあ
 しらった濃目の汁(つゆ)をつけて食べる。

海福寺 (江東区深川2丁目から目黒区下目黒3丁目へ移転。跡は明治小学校)の門前にあったうどん屋〔豊島屋〕の名代ということだが、もちろん池波さんの創作とみた。
といって、あきらめるのも癪(しゃく)だし…。

近所の手打ちうどんの〔高田屋〕のご主人をけしかけたら、一か月近くもの研究の末についに出来上がった。

Ipponudon
〔高田屋〕の一本うどん 2人前

30分以上も茹でられたうどんの香りと風味が豊かで、歯ごたえも十分。いける。
もっとも「おれが、本所・深川で悪さをしていた若いころは、三日にあげず…」食いに行ったと鬼平が告白するほどに入れあげるつもりはないが。

で、 [鬼平]クラスの受講者に呼びかけて試食会を開いた。

Ipponnetsuai
予約は前日までに。4人以上。

なにせ親指ほどの太さなので腰がありすぎて、あごがだるくなるといいだす仁もいることはいたが、そこは鬼平ファン、大好評。

「日本中でお宅1軒でしか食べられないのだから、店の名物に……」と〔高田屋〕さんをそそのかしたら、返ってきたのは「仕込みに時間と手間はかかるし、30分も茹でるんでは商売になりません」との返事。

なるほど……とは合点したが、せっかくのアイデアなので口をきわめてすすめ、「まあ、前日までに予約してもらい、4人前以上ということならなんとか」ということで、池波・食のワールドをひとつ実現させることができた。

なぜ一本うどん にこだわるのかって?
一本うどん そのものに……ではなく、部下をもったら必須の能力……アイデアを実現させることに力をそそいでみたのだ。
数を重ねることによって、うちのボスは口先だけでなく実行力もある、と部下の信頼度もちがってくるはず。

〔高田屋〕は文京区本郷2丁目の大横町商店街の中。
(丸の内線・大江戸線とも[本郷3丁目]下車徒歩3分)
電話 〇3・3815・5659。
午前11時半から営業。日曜・祝日は休み。
(一本うどん:週日は夕5時以降。土曜は昼も可か)。
1人前1000円。こじんまりした店だ。

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201池波さんの味」カテゴリの記事

コメント

「親指のような太さで、白蛇の様に・・・」
怖怖と噂の一本饂飩を食べてみました。
ざるにまるまる一本がとぐろをまいたように盛られ、シコシコと歯ざわりも良く、箸でちぎりながら、薄味のお出しで
いただきました。
連日の暑さの中、あの喉越しの味が思い出されます。
小説の中のお料理が実際に食べられるのも、ちゅうすけさんの
お蔭ですね。

投稿: みやこのお豊 | 2006.07.17 20:49

豊島屋ならぬ高田屋の「一本うどん」、
①箸で切るのにいささか難儀するが
②シコシコした歯ざわりと
③なかなかしっかりとした噛み応えのある代物で
皆でワイワイ言いながら頂きました。

「鬼平ファンなら一度は味わうべし」と
04年9/11(土)の日記に記している。

投稿: 聡庵 | 2006.07.18 00:05

>みやこのお豊さん、聡庵さん

その後も、〔高田屋〕さんは、あちこちのメディアに紹介されているようです。
グーグルでも、けっこうな数、ピックアップされています。

創作を強請してよかったんですよね。

投稿: ちゅうすけ | 2006.07.18 02:05

懐かしい写真を掲載いただきました。そう、もう2年前なのですね。あの一本饂飩の味と歯ごたえは今でも覚えています。ボリュームも有ってしまいにはアゴがくたびれてきたことも。しかし高田屋さんのご協力で江戸の食い物を味わうことが出来ました。感謝しています。また冬の寒い日か何かに再体験したいですね。

投稿: 森下の友之助 | 2006.07.19 09:46

「高田屋」さんの「一本饂飩」。あの日も暑かったですね。
うわさどおりの太さとはいえ、太かったですね。      いろいろな薬味でいただくのですが、箸をおくまもなくいただいたのをおもいだしました。
「高田屋」のご主人から直接、作り方、その手間のかかりかたを伺い、ありがたく、おいしくいただきました。      あなたまだいただいていない? 仲間で4人で出かけてみては....。

投稿: 相州藤沢宿秋山太兵衛 | 2006.07.23 13:14

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