脇役中の脇役
大岡 信さんの朝日新聞(東京では朝刊第1面)の超長期連載コラム[折々のうた]は、1978年1月25日から、もう、28年つづいている(もっとも、折々の休載はあったが---)。
けさ---2006.10.7は、横山悠子という人の句、
片仮名は折れやすい文字草雲雀(くさひばり)
解説の中で、「クサヒバリは、体長1センチに満たないような秋の虫で、チリリリリと透き通った声を、まっすぐに響かせる。それが折れやすい文字を連想させたのだろうか」と。
『鬼平犯科帳』文庫巻18に、[草雲雀]と題した一篇がある。
もう一人のコメディー・リリーフである同心・細川峯太郎が、かつてなじんだ目黒・権之助坂の茶店の女主人お長の躰を忘れがたくて近寄ったことから事件がはじまる。
その未練がましさを、役宅で、鬼平に「いつまでも、子供では困るぞ。早う一人前の男になれ」と叱られる。
その役宅の奥庭で草雲雀が鳴いている。
さびしげに愛らしく、透き通るような、その鳴き声を耳にしな
がら、細川峯太郎は、まだ両手をついたままだった。
p228 新装p237
文庫巻15の終章[秋天晴々]p349 新装p361でも、役宅の庭のどこかで鳴くが、このときは一件落着のあとだから、寂しさの演出役としてではなく、透き通った秋の空気の表現役である。
文庫巻20[寺尾の治兵衛]での役割は、これもコメディ・リリーフのお熊婆さんの茶店[笹や]の裏庭で、昼間の澄みきった秋空を代弁すること。p273 新装p282
別のブログで、『鬼平犯科帳』での草雲雀の名脇役ぶりを紹介したら、多くの方から、野鳥の一種かとおもってきていたとのレスがついた。
もちろん、雲雀のさえずりに似ているところからの命名だが、空から聞こえる鳴き声ほど鋭くはない。
秋の虫の鳴き声を集めたCDでも確かめたが、やはり、「折れやすい」の言葉がぴったりのか弱さといっておく。
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コメント
「鬼平犯科帳」の中に「草雲雀」は何度もでてきます。
池波さんがお好きだったのですね。
「草雲雀」という言葉の響きから、さまざまなシーンが
連想できます。
萩原朔太郎の晩年の詩、
「磊落と河原を行けば草雲雀」のように。
投稿: みやこの豊 | 2006.10.08 10:37
澄んだ秋空に似合う鳴き声---と池波さんは書いていますね。
昼間というより、朝から鳴くことが多いんだそうです。
投稿: ちゅうすけ | 2006.10.08 11:38