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2009.08.23

〔左阿弥(さあみ)〕の角兵衛 (2)

「まず、しょっぱな、四条通り麩屋町東入ルの大店(おおだな)・〔紅屋〕平兵衛方へへえっていって、旦那にお目にかかりてえ、〔左阿弥(さあみ)〕の2代目が、お店(たな)のお得になる話をもってめえいりやした---と、こうでさあ」
からす山〕の松造(まつぞう 21歳)の口上は長ったらしいから、かいつまんで記す。

〔紅屋〕は、〔左阿弥〕の縄ばり内にあったらしく、角兵衛の顔を見た番頭は、すぐに奥座敷へ招じた。
江戸でご身分のあるさるお方が、京洛で只の〔読みうり〕(フリーペーパー)を板行するにあたり、そのお披露目枠の権利を、この〔左阿弥〕の円造におまかせになった。
〔読みうり〕の内容は、「おんなだから、綺麗になれる」方便(ほうべん)を指南するもので、刷り数は、とりあえず2000j枚、くばるのは、〔左阿弥〕が取り仕切っている祇園社と清水寺さんの縄ばり内でだしている仮店が、齢ごろのおんな客に手渡す。

「で、お披露目枠だが、8枠しかねえんで、ご近所のよしみで真っ先に〔紅屋〕さんへ話をもってきた。8枠全部をさしあげてえが、それではこちらさんの引き札になってしまい、真実味がうすくなる。どうだろう、半分の4枠でこらえてもらえねえだろうか---こうでさあ」

銕三郎(てつさぶろう 27歳)が笑いながら、
「で、〔紅屋〕は承知したのか?」
「へえ。大喜びで、それで4両なら、申しわけねえってね。即金でわたしやした」
「さすがに、角兵衛どのだ。ところで、あとの4枠は---?」

「お姐(ねえ)さんが化粧(けわい)指南師をしてる〔延吉屋〕半兵衛の店が、のこりの4枠を---と、せっついたが、角兵衛2代目が、そいつぁ、いけねえ、2枠きりに---と断ってしめえました」
「残りの2枠は---?」

綾小路通り富小路東入ルの薬種(くすりだね)問屋〔中西伊勢大椽〕方が産前・産後の〔安三湯〕と、二条麩屋町角の伽羅油の〔山城屋〕源兵衛方にきまった。

松造角兵衛どののやり口で、覚えたことは?」
「2代目は、嘘やつくりごとを一つもいいやせんでした。ただ、いい方が並みのお披露目やとちがっていて、先方がいかにも得するような話しぶりでやした」
「そうだ。嘘を申しては、信用がなくなる。角兵衛さんは、この土地(ところ)で信用を失っては、元締をやっていけない」

ただ、銕三郎は、別の感想をもっていた。
(真っ先に、大店の〔紅屋〕を押さえたところが、なんとも憎い。おんなかかわりの店で、お披露目で、わずか1両で 〔紅屋〕と並ぶことができるとなれば、おんの字であろう)


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コメント

いやあー、恐れ入りました。
さすが、コピーライター「殿堂入り」されたchuukyuu先生だけに、お披露目におくわしい。
昨日の銕三郎のセリフ、
>空気に値段をつける
とか、
?風聞を売り買いする

---いまの言葉でいえば、イメージングなんでしょうねえ。
ほんと、教えられました。

投稿: 文くばり丈太 | 2009.08.23 05:53

>文くばり丈太 さん
外来語や、明治以後にできた日本語は、なるべく使わないようにしているのです。
おほめにあずかり、苦労の甲斐あったか、ほくそえんでおります。

投稿: ちゅうすけ | 2009.08.23 09:54

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