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2010.01.10

府内板[化粧(けわい)読みうり](3)

初瀬川(はつせがわ)さんが?」
〔耳より〕の紋次(もんじ 30歳)がそう呼んだとき、松造(まつぞう 22歳)は泰然としている平蔵(へいぞう 28歳)をちらりとたしかめ、おおよそのところを推察した。

紋次さん。〔左阿弥(さあみ)〕の元締さんは、傘下のそれにふさわしい仮店に、100枚ずつ渡し、10文で売らせなさったんです」
「10文で---」
「店々の稼ぎというより、::景物紙(フリー・ペーパー)として軽くあつかわれるのを防いだのです」
平蔵が言い足した。

「なるほど。まあ、江戸では、[読みうり]はゼニをだして読むものときまってやすがね。それより、これまでの板木はどうなっていやす?」
「さて---」
「取り寄せれば、その分、彫り代が浮きやす。彫り師の手間は、上方より江戸のほうが高い」
「急ぎ飛脚をたてて、問い合わせてみよう」

「で、あっしの取り分は?」
訊いた紋次の目をじっと瞶た平蔵が、
「ゼニのこともあるが、お披露目枠を扱うというか、傘下の仮店に売らせるのが、〔音羽(おとわ)〕の重右衛門(じゅうえもん 46歳)元締、〔愛宕下(あたごした)〕の伸蔵(しんぞう 43歳)元締、浅草・今戸の〔木賊(とくさ)〕の今助(いますけ 26歳)元締---あと、話がつくのが、ここ、深川の〔丸太橋(まるたばし)〕の源次(げんじ 57歳)元締、上野山下から広小路の〔般若(はんにゃ)〕の元締などが寄って話し合いをなさる席にはべられるとしたら---?」
「えっ? まことでやんすか?」
紋次どのの胸ひとつ」
「乗らせてもらいやす。ゼニ金じゃありやせん」

紋次どの。なにもタダとは言いませぬ。それぞれの元締さんから、1板ごとに取りまとめ賃を1分(4万円)ずついただいても、4人の元締さんで1両(16万円)にはなる話です」
「すげえ」

「もっとも、実るか実らないかは、これからもお披露目枠がうまるかどうかにかかっています」
「実らせてえ。ぜひ、実らせてくだせえ」

紋次にとっては、各盛り場を取り仕切っている大物の元締たちと顔がつながるだけでも、仕事の将来に大きな得になることは目に見えている。

しかも、その席で、[読みうり]の識者として遇される。
こんなうまい話は、めったにあるものではない。
躰が宙に浮いたかとおもえるほど、興奮した。

「で、どうでやしょう? [化粧読みうり]の頭に、[今風]とか、[みやこ風]とかつけたら---」
「いい思いつきです。元締衆の前で、持ち出してください」
「きっと---」

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