平蔵、書状を認めた(3)
嶋田宿までの3日の道中、三島で背中に感じたのお芙沙(ふさ 48歳)のやわらかくも張りと量感の乳房を、辰蔵(たつぞう 13歳)が意識しなかった、というと嘘になる。
興津宿の〔手塚〕十右衛門方では、酒を1本つけてもらい、盃の半分だけ含み、寝床で躰はお芙沙、顔は丹而(にじ 12歳)を10年ほど齢をとらせたおんなにつけかえて股をなぶっているうちに、粗相してしまった。
それからは、母上より18も齢上のおなごであったと自分にいいきかせ、自制した。
嶋田宿の本陣・〔中尾(奥塩)〕藤四郎方へは、指定されていた七ッ半(午後5時)あたりに着いた。
お三津(みつ 22歳)とおもわれる若女将が出迎え、
「お待ち申しておりました」
日出蔵(ひでぞう 50歳)から辰蔵の荷物を受けとり、旅籠への道順をおしえ、出立は明後日の五ッ(午前8時)と告げた。
若女将は、辰蔵を部屋へ通さないで、
「お泊まりの家へご案内します」
本陣東ぞいの御陣屋小路をとおり、しもた屋の表戸を叩いた。
「家主(いえぬし)の小夜(さよ)さまと申されます」
辰蔵を引きわたすと、すぐに戻っていった。
「湯をお召しになりますか?」
「いや。日課の素振りをこなしてからにします」
「素振り---?」
「父が作らせた鉄条入りの木刀をたずさえてきています。拙の腕の筋力を鍛えるためです。朝、夕に80回ずつ振るようにいわれておりますが、拙は、100回を自分に課しております」
「辰蔵さまは、お偉いのですね」
「偉くはありません。修行のためです」
美しい小夜に褒められ、うれしそうに微笑むと、平蔵と同じく、左の頬に片えくぼができた。
裏庭で、蹲踞(そんきょ)の姿勢から素振りに入り、50回あたりで冬にもかかわらず汗びっしょりで、片肌を脱ぎ、80回目ではもう片方も腕をぬき、上半身、素肌をさらした。
見ている小夜の双眸(りょうめ)が熱っぽくなっていることに、辰蔵は気づかなかった。
褒められたので、今夕にかぎり、もう20回をつけたすと、さすがに息があがっていた。
縁側から小夜が声をかけた。
「お背の汗をぬぐってさしあげます」
その手はやさしく、快かったが、ぬぐうはなから汗がにじみ、なんど拭かれても、汗がとまらなかった。
「きりなく流れてまいります。いっそ、風呂場で湯をおかぶりなっては---?」
誘いにのった。
袴を脱ぎ、着物をとり、手をとめた。
下帯を小夜の前ではずすべきか、そのまま湯をかぶるべきか、判断に迷った。
「下帯が濡れます。お取りになって---目をつぶっていますから---」
声が遠ざかったので、おもいきって全裸になった。
白い湯文字一枚の小夜があらわれた。
「あっ」
前をかくす手拭は、小夜の手にあった。
入ってきた小夜は、手桶で湯を汲み、
「腰置きにお掛けになって---」
人形のようにしたがった。
肩から何杯も湯がかけられ、湯文字もびしょぬれになり、太腿の線をあらわにした。
そうなったところで、
「こちらをお向きになって---}
濡れた湯文字ごしに、股の黒い陰が目の前にあった。
手拭は小夜に手にあったから、挙立したものを掌でかくしたが、その腕をつかんで脇によせながら、
「まだ、坊主頭が顔をだしていないのですね。かわいい---」
含み笑いをこぼし、膝をつき、唇をよせ、舌でなめ、
「塩(しょ)っぱい」
手桶で湯をじかにかけ、また、舌をつけた。
「おいしい」
辰蔵が、おもわず小夜の肩をにぎると、
「湯桶へおつかりになって---」
たあいもなく、いいつけにしたがっていた。
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