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2005.01.28

〔山吹屋(やまぶきや)〕お勝

『鬼平犯科帳』文庫巻5に収録の[山吹屋お勝]のヒロインで、いまは凶悪な大盗〔霧(なご)〕の七郎の命をうけて、王子権現の近くの料理屋〔山吹屋〕の茶屋女中となって住み込み、鬼平の従兄の三沢仙右衛門(55歳)の気を惹く。
(参照: 〔霧(なご)〕の七郎 の項)

O36
王子権現社(『江戸名所図会』 塗り絵師・西尾 忠久)

205

年齢・容姿:40の声をきこうというのに30歳ほどにしか見えない。平凡な顔だち。ふっくらとくくれたあご。仕事場の座敷では、小肥りの躰を機敏にさばき、絶えず柔和な微笑を口もとにうかべている。仙右衛門の表現では「----亡くなった、おふくろさまの乳のにおいがするような女」と。
生国:当人がいうところでは、備前・岡山のどこか(現・岡山市)。
父親は、錠前外はずしの名人〔天空(てんきゅう)〕の政五郎。〔天空〕とは虹のこと。

探索の発端:三沢仙右衛門の長男・初造(30歳)が役宅へ鬼平を訪ねきて、父親が〔山吹屋〕のお勝という女を後妻に迎えるといってきかないとこぼした。

人柄の検分に出かけた鬼平、お勝のふとした動作に疑念をいだき、いまは密偵となっているかつての巨盗〔夜兎〕の角右衛門(45歳)の配下で、これも密偵として働いている〔関宿〕の利八(43歳)に、お勝の身辺を探らせることにした
(参照: 〔関宿(せきやど)〕の利八 の項)
(参照: 〔夜兎(ようさぎ)〕の角右衛門 の項)
(参照: 〔蓑火(みのひ)〕の喜之助 の項)

結末:〔山吹屋〕へ出向いた利八を見たお勝は、すぐに15年前の恋人だった彼とわかるや、むかしのおしのに立ちもどり、なりふりかまわず旧情をあたためる。

そして翌日。仙右衛門をたぶらかして三沢家へ入り込んで内情を探るという〔霧(なご)〕のお頭の指令を捨てて、利八とともに駆け落ち。

つぶやき:おしのの父親で、先代〔夜兎〕の角右衛門の一味でもあった〔天空〕の政五郎が、彼女が19歳のときに歿すると、角右衛門が引き取って仕込んだ。
「こういうときには、先ず、首領が女の躰を自分のもにしてしまう」のが常道だという。
そして「仲間どうしではの男女がむすびつくことは断じてゆるされない」 いまは効力が失われてしまっている社内恋愛禁止の社内内規と同じである。

〔夜兎〕の先代が死んで組が手薄になったので、〔蓑火〕の喜之助の配下だった〔関宿〕の利八が、〔夜兎〕一味へ移ってきて、おしのと組んで仕事をしたとき、2人はできてしまった。
制裁をうけるところを、〔蓑火〕がおしのを預かる形で解決がはかられた。
以来15年、2人は一度も会うことはなかったのである。

利八はおしのの最初の男ではなかったし、また、別れさせられたあとの彼女はいくつもの男性経験を重ねたであろうに、まるで初恋のように---いや、彼女にとって、まさに初恋とでもいうべき恋だったのだろう---焼けぼっ杭に火がついた。純愛(?)ものは、いつの時代でもラブ・ストーリーの本道---という証明のような筋書き。

玉子焼きが名代の王子権現脇の店〔山吹屋〕といえば、〔扇屋〕がモデルであろう。

082
『江戸買物独案内』(文政7年 1824刊)の〔海老屋〕と〔扇屋〕
両店の説明はコメントに。


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コメント

王子権現のかたわらで、〔玉子焼〕が名代といったら、落語の「王子のきつね」の舞台にもなっている〔扇屋〕さんがモデルではないんですか。

投稿: 裏店のおこん | 2005.01.28 08:29

>おこんさん

そう、たしかに〔扇屋〕さんがモデルだったでしょう。

でも、もしかしたら、池波さんは〔扇屋〕がちゃんとした記録に名をだしたのは、斉藤月岑『武江年表』で、「寛政11年(1799)春より、王子村料理屋海老や、扇屋見せ開きあり」をご存じで、それで架空の〔山吹屋〕になさったのかも。長谷川平蔵が没したのはその4年前の寛政7年(1795)、[山吹屋お勝]はその前年---寛政6年の事件ですから。

池波さんは、文政7年(1824)刊の『江戸買物独案内』に、海老屋、扇屋の広告が並んでいたことは、ご存じでした。

もっとも、20年前に扇屋の14代当主・早船武彦さんを取材したとき、慶安年間(17世紀中葉)には百姓の茂右衛門が「農間煮売商人」の看板をあげていた、と聞きました。
同時に、『武江年表』にあるのは、そのころにちゃんとした料理屋としての態をなしたのだろうと。

蛇足を加えると、扇屋は武士を泊め、海老屋は町人や村人をあげました。

投稿: ちゅうすけ | 2005.01.28 09:02

山吹屋お勝の登場はグットタイミングでした。この度の鬼平スペシャルでの主人公、放映に備えて本を読み返しておりました。原作との差やら、私の膨らんだ想像も含めて、2月8日が楽しみです

投稿: 所沢*おつる | 2005.01.28 12:51

山吹屋のお勝
非常に色っぽい女は中年の男を魅了します。
三沢仙右衛門をして「お袋の乳のような感じのする女」とは池波先生も書いている時に惚れたのでしょう。
お勝をビデオでは風祭ゆきさんが演じていますが彼女は不倫ものの映画に沢山出ているだけに他の女優ではできない雰囲気の色気をよく出していると感心しています。

投稿: edoaruki | 2005.02.05 09:48

▼ちゅうすけさん
 スペシャル、できがよかったですね。テレビレギュラーシリーズのお勝(おしの)の風祭さんもよかったですが、床嶋佳子さんのお勝、むっちゃよかったと思います。とくにラストのチャンバラシーンの利八を助けようとするおしのがかっこよかった。全体に丁寧に作られていたのがとてもうれしかったなぁ。

投稿: うずらまん | 2005.02.11 20:52

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