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2005.01.04

〔沼目(ぬまめ)〕の太四郎

『鬼平犯科帳』文庫巻18の[毒苺]に登場する凶悪で狡猾な盗人。
嘗役(なめやく)の〔針ヶ谷〕の宗助の女おさわをたぶらかして溜め込んだ金まで狙う。

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年齢・容姿:42,3歳。眉がうすく、眉間に小豆大の黒子。
生国:信濃国上高井郡沼目村(現・長野県須坂市沼目町)

探索の発端:亀戸の料亭〔玉屋〕で食事を楽しみ、帰路についた鬼平の先方で争う物音がしたので、鬼平が名乗ると、襲った側とともに襲われた商店主風の男も消えていた。

その男を〔玉屋〕へ尋ねてきた痩せて背の高い張替え屋を探していて、その男と逢った女おさわとわかり、2人の住い---下谷・坂本3丁目の正洞院の裏までつきとめられた。

池之端の出会茶屋でおさわが体を交わしあっていたのは、なんと、〔針ヶ谷〕の宗助から見取り図を買い取った〔沼目〕の太四郎だった。

つぶやき:亀戸の料亭〔玉屋〕では、鬼平の好物の酒の肴---削ぎ取った鯉の皮を細く切って、素麺と合わせた酢の物と、雄の鯉の煮つけを出した。
『江戸名所図会』によると、亀戸天神の門前や裏門の料亭は、それぞれ生簀(いけす)を構えて鯉を泳がせているそうな。池波さんは、これを読んで、〔玉屋〕の献立にくわえたのであろう。

ちょっと一言。
『鬼平犯科帳』には、〔玉屋〕は天神の表の鳥居前にあると書かれているが、広重の錦絵[江戸高名会亭尽]の〔玉屋〕には、「亀戸天神裏門前」と注記されている。もっとも、現存しない料亭だし、門前だろうと裏門だろう小説の雰囲気には変わりはない。あるのは、帰っていく沼目〕の太四郎がたどる道筋だけである。
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亀戸天満宮(『江戸名所図会』 塗り絵師:西尾忠久)表門と左手裏門あたりに料理屋と書かれている>

鯉の生簀について、『江戸名所図会』はもう一箇所、向島の秋葉大権現のまわりの庵崎の料亭の多くが構えているとしている。文庫巻20[高萩の捨五郎]で、鬼平が彦十を連れて行った裏門茶屋〔万常〕もその一軒である。ここで彦十が〔高萩〕の捨五郎を見かけた。
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向島請地の秋葉大権現の周辺の庵崎の料亭(『江戸名所図会』 塗り絵師:西尾忠久)

付記:長野県 須坂市役所 経済部商工観光課 北 さんからのリポート

「沼目村」は、明治22年4月1日に、周囲の八重森村など5か村と合併して「日野村」となり、昭和29年2月11日に「須坂町」へ合併、「須坂町」は2か月後に市制施行で「須坂市」となっています。
「沼目町」の人口は、平成14年11月1日現在で、世帯数91、男性 173、女性 176で、計 349名です。市内に占める「沼目町」の位置は、市教育委員会による『須坂市の地名』の地図に注をつけました。
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コメント

おさわはどうしようもない毒婦、姦婦ですが、それに輪をかけて悪いのが沼目の太四郎。
女の浅はかさと男の強慾のぶつかり合い、男と女の騙しあい、地獄へどうぞですね。
わからないのが針ヶ谷の宗助。
手前も盗賊のはしくれなのにおさわの手玉に取られたうえに牢屋で会ったおさわをまだ泣き声をあげて掻きくどいたというのだから。
230両もあれば熱海や京都でいくらでもいい女を落籍(ひか)せる事が出来たでしょうに。

投稿: 靖酔 | 2005.01.04 11:39

池波センセは、おまさと奥方久栄ドノ以外の女性にはキビシイすぎるのではないかな。

おさわだってそう。女としていちばん性感が鋭くなる30すぎなんです。少々、しつこく望んだってどうってことないでしょうが。

いま、「負け犬」論議がでていますが、「負け犬」さん、望むときにいつでも好きな人に抱かれた上での優越感なのかしら。

投稿: 裏店のおこん | 2005.01.04 12:02

悪人なら巨悪、悪女ならとことん悪女---を描くのも小説作法の一つですから、ぼくは、世間の道徳観、倫理観で判断しないで、悪なら悪、性(さが)なら性(さが)の深渕を眺めるようにしています。

そうおもってみると、おさわも可愛いおんなに見えてきます。池波さんも、「どうしょうもない女だな」とおもいながら、
「男と女のこのことに飽きるようでは、いいお盗めはできませんよう」
といったセリフを書きすすめられたのではないでしょうか。

投稿: ちゅうすけ | 2005.01.04 12:29

おこんさんの説--池波先生は女性に点が辛い--に賛成です。

「女は過去も未来も忘れている。いまのみ」
とか、
「女はウソをかさねているうちに、自分でほんとうとおもいこんでしまう」
とか。

だからといって、女性が変わるものではありません。この世の中には男と女の2種類しかいないのですから、そういうものとおもって付き合ってゆきましょう。
まあ、なるべくなら池波流の薄い女性と--という条件つきで。

投稿: 文くばり丈太 | 2005.01.04 12:51

>文くばり丈太さん

やさしいお心くばり、ありがとうございます。
鬼平ファンとして、登場人物すべてに、池波さんの目がそそがれているのですから、やさしく鑑賞してあげないとね。

丈太さんのコメント、池波さんも満足していらっしゃるでしょう。


投稿: ちゅうすけ | 2005.01.04 20:11

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