〔文挟(ふばさみ)〕の友吉
『鬼平犯科帳』文庫巻4に収録の[あばたの新助]で、〔網切(あみきり)〕の甚五郎(50男)の右腕として顔見せしている。
(参照: 、〔網切〕の甚五郎の項)
年齢・容姿:40男。商人風。身のこなしが猿のように敏捷。
生国:下野国都賀郡(つがごおり)日光神領文挟宿(現・栃木県今市市文挟町)。
探索の端緒:火盗改メのお頭・長谷川平蔵(44歳)が、深川・富岡八幡宮の門前で組下の同心・佐々木新助(29歳)が、黒えりつき黄八丈の女と歩いているのを認めた。女は、境内の甘酒屋〔恵比寿屋〕の茶汲女お才であった。お才のほうから新助を誘ったのである。
お才のくちびると舌技による愛撫をうけた生まれて初めての強烈な刺激に、新助はお才のとりこになってしまった。
冨吉町の正源寺裏の〔川魚・ふじや〕の2階で素裸で抱き合っていたとき、〔文挟(ふばさみ)〕の友吉があらわれ、
「お才は、〔網切〕の甚五郎の女房」だと新助をおどし、火盗改メの夜の巡回路の提供を約束させた。
以後、巡回の隙をつくように、盗賊団の押しこみがはじまったのである。
結末:ことの次第を長官に知られたとおもいきわめた新助は、お才との決着をつけるべく、冨吉町の〔川魚・ふじや〕へ乗り込んだが、待っていた浪人どもに惨殺されてしまい、新助に心がかたむきかけていたお才は、、〔文挟〕の友吉に首筋を斬られて絶命した。
その友吉は、猿のような身軽さで、姿をくらましたのであった。
つぶやき:〔網切〕の甚五郎一味は、『鬼平犯科帳』シリーズの前半部における、鬼平の宿敵的な存在として描かれてい、手をかえ品をかえて鬼平に襲いかかる。まさに池波さんのストーリー・テリングの才の見せどころの一つともいえようか。
探偵小説の鉄則の一つに、悪人が強ければ強いほど、智謀に長けていればいるほど、探偵側の知恵と力がきわ立つ---というのがある。〔蓑火〕の喜之助や〔夜兎〕の角右衛門のような本格派だけでは、鬼平の凄さは光らないのである。
冨吉町の正源寺の前庭には、四季とりどりの花が咲くが、真夏のスイカズラの淡い橙色の花弁がみごとだ。
正源寺の前庭に咲くスイカズラ
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コメント
真面目すぎるのも考え物ですね。
新助も29歳、ましてお勤めが火盗改ですからこのような罠があること百も承知だったでしょうに。
お才の手練手管の前にはひとたまりもありませんでしたね。
兔忠も結構危ない橋を渡ってるのに、運がいいのですかね。
新助も助平心で始めた遊びで浮気ですが、馴れない遊びが命取りでした。
「だんな だんな」と言うのはお才の本音ですかね。
投稿: 靖酔 | 2005.02.19 11:39
文挟宿の前に、わざわざ、「日光神領」の4文字を入れたのは、『旧高旧領取調帳』にそう記されていたからです。140石強。
神社や寺院領が、どういう配分をとっているのかについての記録を目にしたことがありません。幕臣の知行地よりもきついのでしょうか?
幕府の天領地だと、4公6民が基準だと読んだ記憶があります。
ただ、文挟(ふばさみ)の友吉が村を捨てて盗人----しかも〔網切〕の甚五郎のように凶悪な連中の一味の小頭になるぐらいですから、取立てもなまなかではなかったのかも。
どなたか、寺社領の取立てについてご存じではありませんか?
投稿: ちゅうすけ | 2005.02.19 17:17