〔井尻(いじり)〕の直七
『鬼平犯科帳』文庫巻7に入っている[隠居金七百両]の主役は、大盗賊〔白峰(しらみね)〕の太四郎(72歳)の隠居金(いんきょがね)を京都から〔薬師(やくし)〕の半平(中年男)が運んできて預けた、4年前から雑司ヶ谷の鬼子母神境内茶店の〔笹や〕の亭主で元盗人の〔堀切〕の次郎助(56,7歳)の3人。
(参照:〔白峰〕の太四郎の項)
(参照:〔薬師〕の半平の項)
(参照: 〔堀切〕の次郎助の項)
それと、次郎助のむすめのお順(16,7歳)、〔白峰」のめかけのおせい(28,9歳)、兄〔奈良山〕の与市(30歳)の3人。
(参照:〔奈良山〕の与市の項)
お順に惚れた鬼平の息・辰蔵と悪友・阿部弥太郎の2人が関係する事件である。
しかるに、ひょんなことから、〔井尻(いじり)〕の直七がからんでしまった。脇役の名にも値いしない、点景のような盗人。
年齢・容姿:記載されていない。
生国:摂津(せっつ)国島上郡(しまがみこうり)井尻村(現・大阪府高槻市井尻)
井尻村は大坂に近いところで、丹波国船井郡、美濃国可児郡、伊勢国鈴鹿郡などにもあるが、点景なので、〔淀(よど)〕の勘兵衛配下ということで、あっさりと高槻市を採った。
(参照:〔淀〕の勘兵衛の項)
探索の発端:密偵〔大滝〕の五郎蔵が、両国の盛り場で、かつて顔見知りだった〔淀〕の勘兵衛配下の〔井尻(いじり)〕の直七を見かけた。それまでは京坂から中国筋がテリトリーの〔淀〕一味が江戸で盗めをするのかと、鬼平は、亡父が京都西町奉行時代に記録した〔淀〕の勘兵衛の記録を調べる。
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)
結末:本筋の〔堀切〕の次郎助は病気で急死、〔奈良山〕の与市は捕縛。〔白峰〕一味は京都奉行所が捕り逃がした。
『鬼平犯科帳』では稀有のことだが、〔淀〕の勘兵衛と〔井尻〕の直七の始末については触れられていない。
忙しさのゆえに池波さんが失念したものか、上方の盗賊を深追いするほどの興味はもてなかったか。
つぶやき:この稀有のことを指摘するだけでも、当ブログに取りあげる意味があるとおもった。
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コメント
400名近い盗人の生国調べをするとお書きになっていたので、そんなに盗賊がいたっけ? と、半信半疑でしたが、〔井尻〕の直七のような端役までチェックすれば、なるほど、400人もホラ(失礼!)ではなさそう、と思えてきました。
完了したら、空前絶後、さぞかし、壮観!でしょうね。
投稿: 文くばり丈太 | 2005.05.05 12:39
>文くばり丈太さん
『雲霧仁左衛門』の盗賊もふくめると、400人はいるとおもうのですが、生国が決められる盗人がそれだけいてくれるかどうか、やってみないとわかりません。
しかし、だれかが、一度はやっておく必要があるのではないかと信じて、つづけています。
というのは、いつもいいますように、盗人の生国は、池波さんの頭脳の中の、ロケーション・イメージだからです。
投稿: ちゅうすけ | 2005.05.05 13:43
私は読み流してしまって、印象にも残らなかった井尻の直七です。
池波さんが点景にしか描かなかったという事自体が、謎を投げかけているのですか。
小説を読むって、注意力を集中して、難しいのですね。
でもこのブログのお陰で今までの読書法と異なった未知の分野を知りました。
投稿: みやこのお豊 | 2005.05.05 20:08