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2005.05.19

〔笠倉(かさくら)〕の太平

『鬼平犯科帳』文庫巻12に所載の[高杉道場・三羽烏]で、剣友盗賊・長沼又兵衛一味を助(す)ける、役者くずれなだけに化けのうまい独りばたらきの盗人。
(参照: 剣友・長沼又兵衛の項)

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年齢・容姿:44,5歳。一癖もニ癖もある面がまえだが、どこにでもある顔。
生国:信濃(しなの)国水内郡(みのちこおり)笠倉村(現・長野県下水内郡豊田村豊津)。
笠倉村はかつて、香桜(かざくら)村と呼ばれた。村に1本のみごとな桜の木があったからである。千曲川の氾濫で村が流され、台地に移住したときに笠倉(かざくら)村と改名した。
真田一族の取材もあり、池波さんは信濃路をよく渉猟しているが、(かざくら)と濁るとは気づかなかったのだろう。
太平は、早くから名古屋へ出て役者となり、その演技力を生かして、のち、化けの巧みな盗人となった。

探索の発端:船宿〔鶴や〕をまかされている〔小房(こぶさ)〕の粂八が、かつて兇盗〔野槌(のづち)〕の弥平の下にいたとき、〔砂蟹(すながに)〕のおけいも一味にいた。
(参照: 〔小房〕の粂八の項)
(参照: 〔砂蟹〕のおけいの項)
その女賊おけい(40がらみ)が〔鶴や〕で逢引きをした相手が、〔笠倉(かさくら)〕の太平であった。
隠し穴から2人の会話を盗みきくと、長沼又兵衛一味が狙っているのは、巣鴨の徳善寺と。
鬼平が、身分をかくして徳善寺へ潜んだ。

結末:同門だった長沼又兵衛は鬼平に斬られたが、家督している兄のために、名前は大島平之進としてと処理された。太平もおけいも逮捕。

つぶやき:梅原猛さんの「国民文学の4条件」の一つに、「抑制のきいたエロス」があげられている。
柱を背に、あぐらをかいた〔笠倉〕の太平の上に腰をおろし、着物も乱さずにゆったりと揺れるおけいとの情事には、覗き見している粂八もさすがにしどろもどろ。

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コメント

池波さんの映画の本「池波正太郎の映画の本」を読んでいましたらフランス映画のフィルム・ノワールの名監督ジャン・ピエール・メルビルの名言を池波さんが紹介してました。
「人生には三つの要素がある。愛と、友情と、裏切りだ」と。
この三つの要素はまさに鬼平犯科帳面での重要な要素ですね。
おけいと笠倉の太平二人の情事の描写はいつもと違っていてエロチックでした。

投稿: 靖酔 | 2005.05.18 11:39

「人生には三つの要素がある。愛と、友情と、裏切りだ」

うーん、名言ですね。
もう一つ、加えたい---盗みの興奮。

投稿: ちゅうすけ | 2005.05.19 17:44

おけいさんと笠倉の太平さんとの情事の場面、さすがにヴェテラン同士の愛技というか、粂八っつぁんならずとも、生つばをのみこまないと、見てられないわねぇ。

でも、粂八っつぁんとなら、やってみたい気もするんだけど。

投稿: 柳原岩井町裏店 おこん | 2005.05.19 17:59

>おこんさん

あいかわらずの演技力、堪能させていただいております。

それにしても、おこんさんの手にかかると、なんでも艶っぽく化けてしまうのには、感心、しきりです。

投稿: ちゅうすけ | 2005.05.20 15:55

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