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2005.05.20

〔乙坂(おとさか)〕の庄五郎

『鬼平犯科帳』文庫巻2に収録の[密偵(いぬ)]で、主人公〔ぬのや〕の弥市を、〔荒金(あらがね)〕の仙右衛門一味を裏切った者として、残党の〔縄ぬけ〕の源七のもとへ、巧みに誘導する。
元は〔夜兎(ようさぎ)〕の角右衛門一味にいた男。

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(参照: 〔荒金〕の仙右衛門の項)
(参照: 〔夜兎〕の角右衛門の項)

年齢・容姿:30男。痩せた小柄な躰。
生国:strong>越前(えちぜん)国丹生郡(にゅうこうり)乙坂(おつさか)村(現・福井県丹生郡朝日町乙坂)。
『旧高旧領』はほかに、越前国 今立郡乙坂今北村(現・福井県鯖江市乙坂今北町)と、美濃国石津郡乙坂村(現・岐阜県養老郡上石津町乙坂)を記している。どちらも(おつさか)と読む。
〔夜兎〕の角右衛門一味にいたことから、美濃かともおもったが、浜松で捨て子された〔夜兎〕に江戸で育てられて名跡を継いだ角右衛門と、因幡出身の〔荒金〕の仙右衛門のつなぎ役というふうに考え、日本海側の越前説を採りたくなった。
また、池波さんは福井県を旅行しており、そのときに乙坂山を目にして記憶にとどめたろう、とも推測。

探索の発端:5年前の天明6年(1786)、弥市はそのときの火盗改メ・堀帯刀組(先手・弓の第1組)の手に捕まり、拷問の末に〔荒金〕一味の盗人宿を自白し、一味11名が捕縛された。そのとき〔縄ぬけ〕の異名をもつ源七が縄ぬけして逃亡した。
〔乙坂(おとさか)〕の庄五郎が弥市に告げたのは、源七が江戸へ戻ってきて弥市の命を狙っているということだった。
密偵になっている弥市は、そのことを与力・佐嶋忠介へ報告し、庄五郎の強請のまま、合鍵づくりを引きうけた。
その弥市には、佐嶋の手配で見張りがついていた。

結末:弥市が合鍵を、竃(へっつい)河岸の奈良茶漬屋〔巴〕で待っていた〔乙坂(おとさか)〕の庄五郎へとどけると、そこには〔縄ぬけ〕の源七が隠れていて、弥市を刺殺。
庄五郎と源七をはじめ、集まってきた〔乙坂〕一味は捕縛。寛政3年(1791)初冬の事件である。

つぶやき:密告したとか密偵(いぬ)になったとかで、仲間を裏切った者への制裁のきびしさは、さもあろうと、うなずける。
しかし、密偵は鬼平身内の者でもある。彼らが盗賊たちから制裁を受けるのを読むのは、耐えがたい。弥市はその第1号。
伊三次や〔馬蕗(うまぶき)〕の利平治がつづいて、読み手の胸をゆさぶる。
(参照: 伊三次の項)
(参照: 〔馬蕗〕の利平治の項)


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コメント

笠倉の太平の晴酔さんのコメントで、「人生には、三つの要素がある。愛と友情と裏切だ」と

裏切りは人生につきものなんですね、大なり、
小なり。まして、規制の強い盗人の世界、裏切りを許したら、統制がとれなくなるので、見せしめの為にも制裁がきびしいのですね。

でもきびしく、むごいほど読み手は興味をそそるのでしょう。

投稿: みやこのお豊 | 2005.05.20 22:18

「対岸の火事と他人の不幸は大きいほど面白い」ともいいますね。

でも、密偵になっている弥市は、もはや、鬼平側の---というか、読み手側の人物で、他人とは思えません。ですから、弥市に助かってほしいと考えてしまうのです。

投稿: 練馬の加代子 | 2005.05.21 05:12

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