〔吉間(よしま)〕の仁三郎
『鬼平犯科帳』文庫巻4の[血闘]は、おまさが初登場の篇として、鬼平ファンにはよく知られている。
(参照:女密偵おまさの項)
おまさが自分から密偵を志願してきたのは、長谷川平蔵が火盗改メの本役に就いた翌日か翌々日、すなわち天明8年(1788)10月3日か4日である。
テレビでおまさ役をやっている梶芽衣子さんのぱっちりした瞳とおちょぼ口の美貌と、少女時代から抱いていた鬼平への思慕の気持ちを抑えて鬼平に接するいじらしさに同情するせいか、おまさにひそかに岡惚れしている男性の視聴者は少なくはない。
まあ、映像をとおしてのことだから、いくら想いを寄せようと人畜無害ではあるのだが。
そのおまさを、不逞の浪人たちに輪姦をそそのかすのがこの〔吉間(よしま)〕の仁三郎なのだから、人気が得られるはずがない。
(参照:〔吉間(よしま)〕の仁三郎の項)
おまさと仁三郎の接点は、3,4年前に2人が〔熊倉(くまくら)〕の惣十一味に属していたとき。
(参照: 〔熊倉〕の惣十の項)
年齢・容姿:中年。書かれているのは声のみ。
生国:常陸(ひたち)国真壁郡(まかべこうり)吉間(よしま)村(現・茨城県筑西市明野(あけの))
農業地の吉間]村は明治22年(1889)に村田村に合併。昭和29年に村田村はほかの3村と合併して明野町が成立。
探索の発端:どこかの盗賊一味を密偵していたらしいおまさが、「しぶ江村、西こう寺うらのばけものやしき」の書き置きをのこして誘拐された。
鬼平は、渋江村(現・葛飾区四つ木)の不逞の浪人たちがたむろする西光寺裏の化けもの屋敷へ飛んだ。援軍を待つうちに陽が落ちはじめる。
渋江村 西光寺(『江戸名所図会』より 塗り絵師:ちゅうすけ)
池波さんは、この絵で、舞台を渋江村に決めた。
おまさが危ない!
一人で乗りこむと、〔吉間〕の仁三郎が次の浪人にすすめている。
鬼平は、やにわに、仁三郎の首に腕をまきつけていた。
結末:遅れていた佐嶋与力や山田市太郎同心、酒井祐助同心ら捕方がかけつけ、浪人どもも仁三郎も逮捕。死罪。
つぶやき:時代小説に、おまさ役は定番である。
ヒーローに岡惚れしているのが鳥追い女であったり、女掏摸(すり)であったり、水茶屋の茶汲女であったり、売れっ子の芸者であったり、小唄のお師匠であったり---いずれも男性経験の豊な女性たちである。
おまさとてそこのところは同じだが、おまさがほかの女たちと異なるのは、胸の内を告白してヒーローを困らせない点といえる。
もちろん、代弁者はいる。おまさの少女時代を知っている相模無宿の〔彦十〕がそれ。このあたりの配慮も、これまでのありふれた時代小説と一線を画しているとおもう。
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コメント
許せない! ゆるせない!
吉間の仁三郎が不逞浪人にすすめた、おまささんのレイプ、許せない!
でも、おまささん、けなげにも、
「これしき、覚悟の上です」
と、お頭へ。
涙がとまりません。
投稿: 柳原岩井町裏店 おこん | 2005.06.15 19:02