〔嶋田(しまだ)〕の惣七
『鬼平犯科帳』文庫巻20に収録の[顔]の主人公。
銕三郎(家督前の長谷川平蔵の名)と岸井左馬之助が高杉道場で竜虎と呼ばれていた当時、2人よりもさらに剣技がすぐれていたのが、やや年長の井上惣助であった。惣助は20数年前に幕府から切腹をいわれ、家名も断絶していた。
年齢・容姿:60歳に近い。白髪で歩行にも老いがみえる。
生国:江戸。5,6歳のとき、母親の故郷の駿河の嶋田へ移り、17歳で家出。そのまま、盗みの世界に。
探索の発端:高輪の太子堂(現在は高輪神社)に詣でた鬼平が、東海道筋で20数年前に切腹したはずの井上惣助を見かけた。後を尾行(つ)け、品川寺・鐘撞堂の南側に住んでいることがわかった。
高輪 太子堂・稲荷・庚申堂
(『江戸名所図会より 塗り絵師:ちゅうきゅう)
品川(ほんせん)寺(『江戸名所図会より 塗り絵師:ちゅうすけ)
と、怪しげな浪人(30がらみ)と2人の町人がその家を見張っていた。
結末:3人の不審者が惣助の家へ踏み込こもうとしたので、鬼平と元ご用聞・富五郎が捕らえたが、惣助に似た老人は、宗助の父・惣右衛門が茶汲み女を妾にして生ませた子で、長じて〔嶋田(しまだ)〕の惣七を名乗り、上方がテリトリーの〔稲谷(いなたに)〕の仙右衛門の軍師といわれるまでになったが、2年前に仲たがいし、500余両を持ち逃げしていた。襲ったのは〔稲谷〕一味の者たち。
つぶやき:他人の空似---もっともこの篇の場合は、父親が同じだから「他人」とはいいがたいが、空似や1人2役の、舞台の見せどころの一つでもある。
戯曲から出発したから、とこじつけるわけではなく、池波さんは少年時代から芝居や映画に親しんでいたというから、発想の根元のところに、空似や早変わりがあるのだろう。
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