〔杉谷(すぎたに)〕の虎吉
『鬼平犯科帳』文庫巻12に収められている[見張りの見張り]は、行方知れずになった息子・佐太郎を殺した男に仇討ちをしようと旅をしている〔長久保(ながくぼ)〕の佐助(60すぎ)が、偶然に昔なじみの〔舟形(ふながた)〕の宗平と出あった。
(参照: 〔長久保〕の佐助の項)
(参照: 〔舟形〕の宗平の項)
宗平がここは〔大滝〕の五郎蔵の盗人宿だというと、佐助は、五郎蔵をつけまわしはじめる。かつて五郎蔵の配下だった〔杉谷(すぎたに)〕の虎吉こそ、佐太郎を殺した敵と、〔橋本(はしもと)〕の万造(32,3歳)にいわれたからである。
(参照: 〔橋本〕の万造の項)
年齢・容姿:中年。ずんぐりした躰つき、角ばっていて脂ぎった顔だち、張りだした額の下の大きな眼玉。
生国:近江(おうみ)国甲賀郡(こうかごおり)杉谷村(現・滋賀県甲賀(こうか)市杉谷)
「杉谷」村は、上総国周淮郡、越前国丹生郡、同足羽郡、遠江国佐野郡、大和国吉野郡、伊勢国朝明郡にもあるが、池波さんの頭に浮かんでいたのは、甲賀五十一家のうち、『蝶の戦記』(文春文庫)のヒロイン於蝶のお頭・杉谷与右衛門信正ではなかったか。
杉谷郷について同作品は、京都から鈍行で一時間半、「貴生川から南へ一里。そこが、杉谷の里であった」と記して、池波さんが取材で訪れたことを暗示している。
探索の発端:五郎蔵が南品川で〔杉谷(すぎたに)〕の虎吉の女房がやっている蝋燭屋を訪れ、密偵の伊三次をみかけた。
(参照: 伊三次の項)
五郎蔵が鬼平に事情を告白すると、蝋燭屋の女房が毎日のように買物をしている近所の八百屋のむすめが下女として奉公をしていたのは本郷4丁目の紙問屋〔伊勢屋〕だが、先日、一家店員ともども惨殺されたため、その聞き込みに伊三次が行っていたのだと聞かされた。
結末:五郎蔵が〔杉谷〕の虎吉を罠にかけて捕縛。死罪を前にして虎吉がいうには、〔長久保〕の息子を殺してはいないと。
つぶやき:池波さんの創作法は、あらかじめ筋書きを考えないで書き出し、あとは成り行きまかせだというのだが、それにしては、この篇などは起承転結がうまくいっている。
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コメント
「甲賀」は「こうが」と読むか、「こうか」と読むかで、以前HP上で,調べ合った事がありました。
「杉谷」の虎吉の生国を検索していて、甲賀市の「ウィキペディア」に次のようなことが書いてありました。
2004年10月1日に水口町、土山町、甲南町、
信楽町を合併して「甲賀市」が誕生する時に、
市名を「こうか」か「こうが」で決戦投票になったそうです。
結果、市名は「こう・か」、郡名も「こう・か」
忍者は「こう・が」と清濁入り乱れているのです。
投稿: みやこのお豊 | 2005.07.15 17:28
>みやこのお豊さん
(こうか)(こうが)は、決戦投票だつたんですか。
それにしても、忍者だけが(こうが)とは!
こちらも(こうか)にしたほうが、早く浸透すると、マーケティング的にはおもうんだけど、テレビや映画や講談が(こうが)といってれば、そっちになびきそう。
投稿: ちゅうすけ | 2005.07.16 04:42