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2005.10.17

〔翻筋斗(もんどり)〕の亀太郎

『鬼平犯科帳』文庫巻8に所載の[白と黒]に登場する〔翻筋斗(もんどり)〕の亀太郎は、〔門原(もんばら)〕の重兵衛一味にいたが、火盗改メが捕縛にむかったとき、ただ独り逃れえた。というのも、軽業一座で鍛えた身の軽さが難をすくったのである。
(参照: 〔門原〕の重兵衛の項)
本所・小梅の西尾隠岐守下屋敷の仲間部屋で根が好きな博打をやっていると、かつて〔門原〕一味で助(す)けばたらきをしたことのある女盗人のお今(27,8歳)に声をかけられ、押しかけてきた女2人と性の饗宴をたのしんでいた。
(参照: 下女泥お今の項)

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年齢・容姿:27歳。鼻すじは陥没しているが鼻の頭や小鼻きむっくり張っている。
生国:相模(さがみ)国津久井県小渕村のうち(現・神奈川県津久井郡藤野町関野)
当人の申したてでは甲州・関野だが、『大日本地名辞書』にも『旧高旧領』にも、甲州には「関野」という地名はない。甲州街道の宿駅だったので、池波さんが甲州と記憶してしまったか。
ほかには伊豆国加茂郡(現・静岡県田方郡中伊豆町)と武蔵野国多摩郡(現・東京都小金井市)に「関野」がある。

探索の発端:巣鴨の三沢仙右衛門宅で夕食を終え、富の市とつれだって感応院・子育稲荷の門前で、鬼平は、{門原〕一味の逮捕のときに取り逃がした軽業゜あがりの〔翻筋斗(もんどり)〕の亀太郎を見かけた。
亀太郎は富の市のお顧客だったから、亀太郎の家も知れ、見張りがついた。

結末:火盗改メが踏みこんでみると、女2人とかめ太郎の3人ともまっ裸でふざけあっており、そのままの姿で逃げ出したところを鬼平に捕まった。

つぶやき:取調べがすむと、鬼平が佐嶋与力へ「あの、もんどりの亀太郎は、密偵に使えるとおもう。考えておいてくれ」といった。
元盗賊を密偵に仕立てる条件の一つが、一味がすっかり処刑されていて、正体がバレにくいことであろう。その点、〔門原〕一味は1年前に根こそぎ処刑されているから、亀太郎の前身を知っている同業者は数少ないといえる。

〔翻筋斗(もんどり)〕の〔筋斗〕は、歌舞伎用語では(とんぼ)と読む。いわゆる「とんぼがえり」である。歌舞伎に通じていた池波さんのこと、亀太郎に〔翻筋斗(もんどり)〕とつけたのは、彼の特技である(とんぼ)を頭に描いていてのことだったろう。

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