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2006.02.12

〔駒屋(こまや)〕の万吉

『鬼平犯科帳』文庫巻14の[尻毛の長右衛門]で、タイトルにもなっている本格派のお頭〔尻毛(しりげ)〕の長右衛門(50を越えたばかり)一味の連絡(つなぎ)役、〔布目(ぬのめ)〕の半太郎(28歳)が頼りにしている元盗め人で、いまは上州・妙義山の笠町で小さな旅籠の亭主におさまっているのが〔駒屋(こまや)〕の万吉である。
(参照: 〔尻毛〕の長右衛門の項)
(参照: 〔布目〕の半太郎の項)
万吉は、半太郎の父親の伊助とともに、いまは亡き大盗〔蓑火(みのひ)〕の喜之助(享年67)の下で薫陶をうけたが、喜之助が一味を解散したときにもらった退職金で故郷の旅籠を買ったのである。
(参照: 〔蓑火〕の喜之助の項)

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年齢・容姿:どちらの記述もないが、半太郎の父親と仲がよかったとあるから、そろそろ60に手がとどこうかという齢ごろか。容姿は旅籠の亭主におさまれるほどだから、尋常であろう。
生国:上野(こうずけ)国甘楽郡(かんらこおり)本宿(もとじゅく)村(現・群馬県甘楽郡妙下仁田町本宿)
『旧高旧領』で妙義山のあたりに「笠町」は見当たらない。それで、中山道からそれた下仁田(しもにた)越え道で捜した。
当初は「駒屋」の屋号で捜して岩代(いわしろ)国安積郡(おさかこおり)駒屋村(現・福島県郡山市三穂田町駒屋屋)とも考えたが、聖典に「故郷の上州」とあるので、残念だが捨てた。

探索の発端と結末:半太郎が行く方知れずになったとおもいこんだ引き込みのおすみ(19歳)は、半太郎が口にしていた〔駒屋〕の万吉を訪ねた。それで〔大滝〕の五郎蔵に尾行され、万吉はおすみともども捕らえられた。処分は書かれていない。
(参照: 引き込み女おすみの項)
(参照: 〔大滝〕の五郎蔵の項)

つぶやき:江戸時代、時効という制度はなかったのであろうか。『御定書百ヶ条』にも記されていない。万吉はすでに足を洗って10年近くなるのだが---。

そういえば、『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンも古くて軽い犯行のためにいつまでも追われた。

後日談万吉が小さな旅籠〔駒屋〕を買い取った---という記述が、すごいヒントを与えてくれた。
万吉は、〔尻毛〕の長右衛門と似たり寄ったりの齢か、それよりも上とおもえる。

蓑火(みのひ)〕の喜之助お頭が引退するとき、安旅籠の亭主となった? 旅籠を買い取ったのは、なぜだ? 
そうか、万吉は、〔蓑火〕の一味にいたとき、〔盗人宿〕兼用の旅籠をまかされたいたのではなかろうか?

なぜ、〔蓑火〕のお頭は旅籠も経営していたか? 中仙道は、もっぱら近江商人が利用した街道である。その宿々へ、商人用の安旅籠チェーンをつらねておけば、彼らの話から、江戸や京師の裕福な商家の情報が入る---その中の一軒の旅籠でその稼業の修行をしたのが万吉ではなかったのか---。

こうして、〔蓑火〕一味の、情報収集ルートの一つを発見、また、そのことを喜之助お頭へ提言した軍者(ぐんしゃ 軍師)へも類推がおよんだ。

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