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2006.03.03

〔四木(しもく)〕の房五郎

『鬼平犯科帳』文庫巻14iの巻頭におかれている[あごひげ三十両]の主人公は、高杉道場で銕三郎や岸井左馬之助の兄弟子にあたっていた野崎勘兵衛(かつて40歳。現在は70歳前後)である。
30年ほど前、妻子がいる身で、深川の船宿が世話した女・お兼に入れあげ、師・高杉銀平に逆らって失踪。
お兼のうしろにいたのが、土地(ところ)でも羽ぶりのよい無頼者〈四木(しもく)の房五郎がついていたからたまらない。
この盗賊でもない房五郎を取りあげたのは、テレビの冒頭の「この世に悪は絶えない」のナレーションを地でいっているとおもうからである。

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年齢・容姿:どちらも記述されていない。察するに、40歳前後、筋肉質の鬚の剃りあとの濃い風貌であったろう。
生国:深川でいい顔になったのだから、深川育ちと推定。

事件の経緯:所用で渋谷・羽根沢へでかけ、氷川明神社へ参詣した岸井左馬之助が、野崎老人を見かけ、その家にお兼が病妻となって寝ていることを確かめた。
とすると、勘兵衛は添いとげたことになる。
〔四木〕の房五郎との話ばどうついたのか。多分、妻子も家禄も師も捨ててきた勘兵衛の誠意に、お兼のほうが房五郎に別れ話をもちかけたのであろう。尋常なことでは話のつく房五郎ではないが、自分に愛想ょをつかした女がわからないほど野暮でもなかったのであろう。
もとろん、房五郎の手下が勘兵衛を襲いもしたろう。それにも耐えて、添いとげたとみる。
あるいは、房五郎が縄張り争いで殺されたか。

つぶやき:小説は、そこのところを読み手の想像にまかせている。主題はそのことではなく、勘兵衛が病妻のために自慢の鬚を30両で売るところと、鬼平・左馬之助が名乗りかけないおもいやりにあるのだ。

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