京・瓜生山
『都名所図会』は、『江戸名所図会』を生む端緒となった地誌である。
京都がすきだった池波さんは、『江戸名所図会』同様に、『都名所図会』を丹念に読みこんでいる。
佳篇[1-5 老盗の夢]の前半は『都名所図会』から生まれた。
大女だった母親の乳房への思い出からだろう、名盗〔蓑火(みのひ)〕の喜之助は、亡友〔伊賀(いが)〕の音五郎の女房で、反胸(そりむね)の堂々とした体格のお千代となじんでしまう。
お千代は20年前に先逝、京の北東の瓜生山の谷あいの墓へ詣でるのが、67歳となった〔蓑火〕の、いまでは楽しみにさえなっている。
帰りの一乗寺村へ下る道すじで、お千代そっくり---とはいえ、年齢は20歳と若いおとよに出会った。
『都名所図会』で、瓜生山を探して、[白川・心性禅寺]の絵が目にとまった。
たぶん、この絵が池波さんのヒントになったのだろうと推測。
おとよは、山端(やまはな)の茶屋〔杉野や〕の茶汲女---つまり「、客の求めにはいつでも躰をあたえながら、
「あ---こないなこと、わたし、はじめて---一度にやせてしもうた---」
が口ぐせ。
大女が好みで、何年ぶりかで男のきざしをよみがえらせた〔蓑火〕のほうは、そのことに、つゆ、気づかない。
所帯をもってみる気になるほどに分別を失い、資金かせぎに江戸へ下る始末。
ついでだか、山端の麦飯茶屋も、『都名所図会』に絵が添えられている。
高野川に架かっている2本の橋の向こう、それぞれ北側に建っているのがそう。正面は比叡山。
〔蓑火〕は晩年、好みの女に行きあったばっかりに命まで落とすが、その間際に、真の盗人(つとめにん)の意地を貫くから、まあ、本望だったといえようか。
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