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2007.08.10

≪日本の歴史≫『崩れゆく鎖国』

2007年8月1日の[田沼主殿頭意次]に、学友の氏の講義録から、

実はこの事件の審議の前後から田沼意次(おきつぐ)が評定所に参加するようになり、この責任者たちの処分には彼の意向がかなり反映されていたらしいから、これを田沼時代の幕開けとする見方もある。(こういう面から郡上騒動を扱った本では、大石慎三郎著『田沼意次の時代』がよい手引き書)。

を引用。

氏説に異を唱える気持ちはさらさらないが、意次が評定所の式日に席につらなるように下命されたのは宝暦8年9月3日ともとれる記述が、意次『寛政譜』にある。
裁決は、9月14日である。席につらなった早々に意見を述べるほど、諸事に慎重で思慮深い意次が向こう見ずな発言をするとは、ちょっと信じられないのだが。

と、いささか向こう見ずな私見を記した。
これを読んでくださった氏から、電話で「いや、そうではなく、田沼意次はかなり強硬な意見を持って評定所の評議へ参画した史料がある。深井雅海氏『徳川将軍権力の研究』(吉川弘文館 1991.5.10)に、郡上八幡一揆の五手掛で審議をした一人---寺社奉行・阿部伊予守正右(まさすけ)が書きのこした『御僉議御用掛留』が引かれいる。送るから、読むといいよ」と教えられた。学友とはうれしいものだ。
関連ページに添えて、手紙があった。

深井雅海氏『徳川将軍政治権力の研究』田沼関係の抜すいを同封します。
『御僉議御用掛留(ごせんぎごようがかりとどめ)は重要な史料なので、別に<読み下し>を作って添えました。
なお、ご参考までに、田沼時代前後の概説としては、集英社版≪日本の歴史≫シリーズの(14)『崩れゆく鎖国』がもっともすぐれていると、私は考えます。著者は経済史家の賀川隆行氏で、『江戸幕府御用金の研究』(2002年)という大著の著者でもあります。三井文庫の研究員として、故中井信彦氏の指導もうけていた手がたい研究者ですが、前記の概説書は政治や文化にも目くばりがきいていて、あなどりがたい本だとおもいます。
ついでに、故中井信彦氏の『転換期幕藩制の研究』(1971)は、江戸中~後期の政治史と経済史の統一的把握を試みた記念碑的著作で、未だにこれを越えるものは出ていないと思いますが、史学界ではまだ十分な評価をうけていない気がします。

ふつうなら、ぼくなんかの視野の外にある本たちである。さっそく、図書館へ走って、予約を入れた。

まず、集英社版≪日本の歴史≫シリーズ。賀川隆行さん『崩れゆく鎖国』(1992.7.8 2400円)が区内の別の図書館からとどいた。
著者略歴
1947 福井県に生まれる
1973 財団法人三井文庫研究員 現在に至る
1975 一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学のち社会学博士
専攻 日本近世経済史

_120『崩れゆく鎖国』の目次の一部
 第1章 田沼意次の時代
     1 吉宗の政治
     2 混迷する藩政
     3 田沼政権下の政治状況
     4 天明の大飢饉
 第2章 全国市場と長崎貿易
     1 米の流通市場
     2 絹・木綿・水油
     3 長崎貿易
     4 銀山・銅山・たたら製鉄
 第3章 洋学と世界認識
     1 『解体新書』の翻訳
     2 地理学・天文学と世界認識
     3 蝦夷地探検
     4 安永・天明期の町人文化
 第4章 寛政の改革
     1 松平定信政権の誕生
     2 寛政の改革
     3 学問と出版の統制
     4 関東農村の立て直し
 (以下略)      

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コメント

田沼意次は私が学生時代に学んだ人物とは近年大分評価が違っているようです。
早速地元の図書館で集英社の日本の歴史シリーズ「崩れゆく鎖国」借りてきました。
これは読みやすそうなので私にも理解できそうです。

投稿: みやこのお豊 | 2007.08.10 22:30

>みやこのお豊さん

おお、早速に。
ブログに掲出した章だけでも、長谷川平蔵が活躍した田沼、定信の時代背景が理解できる、すばらしい歴史解説書です。

これまでの歴史書は、ほとんどが政治史家側から書かれています。
大石慎三郎さん、深井雅海さん、賀川隆行さんらは、経済史の側からアプローチしていますから、いささか、異なった印象があるかもしれません。

グーグルで、日本の歴史家を検索すると、この人たちはまだ記録されていませんが、時間の問題でしょう。

投稿: ちゅうすけ | 2007.08.11 04:23

毎日新聞の書評欄に「田沼意次」の最新研究書が紹介されていました。
書名:『田沼意次ーご不審を蒙ること、見に覚えなし』
著者:藤田覚
出版社:ミネルヴァ書房
刊行:2007年7月
価格:2940円
書評では
「賄賂の噂はその跡を襲った松平定信が寛政の改革を実施するにあたって意識的に流したものであり、実は清廉な政治家としての一面を有していたと見るばかりか、江戸時代に重商主義的政策を主導したとして高く評価する向きさえある。どうしてそのような正反対の評価が生まれたかといえば、意次に関する史料がいたって少なく、どうしても他からの評価に頼らざるをえないことによるらしい。本書の著者もその史料に少なさがゆえに、これまで本格的に扱うことを控えてきたという」

「意次の多くの政策が災害の勃発や、天明の飢饉による食糧難や疫病によって失敗に帰し、すべてのツケを負わされ、失脚したのであるが、どうもそこには縁戚関係を結んでいた田沼派の老中であった水野忠友の策謀があったらしいことも推測している。」

また書評の見出しには
「慇懃で柔軟な思考持つ時代の寵児」となってます。
まだ手にとってませんので詳しい内容がわかりませんが田沼意次の関して新しい評価をしているようです。

図書館が購入してくれると良いのですが。

投稿: 靖酔 | 2007.08.11 09:33

>靖酔さん

その本のタイトル、田沼意次の遺書(上奏文)にの中の言葉ですね。

http://onihei.cocolog-nifty.com/edo/2006/12/post_3197.html

に掲載しています。

投稿: ちゅうすけ | 2007.08.11 17:38

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