『よしの冊子(ぞうし)』(10)
よしの冊子(寛政元年6月13日より)
一. 博奕ばかりご禁制で、岡場所遊女などをそのままに放置しておいては、博奕の吟味が行きとどくまい。
いずれ、初めは遊び場へ足を入れ、あげく、博奕場へも出入りするようになる。博奕は末、遊所は本なのだから、本からとめるようにしたいものだと噂されているよし。
(老中首座・松平定信の理想主義にかぶれた従兄にあたる松平左金吾あたりの言葉か?)
一. 田舎は博奕は止んだが、江戸では小身のご家人などがいまだにやっているよし。
少禄の家は蔵宿(札差し)にもかなりの借金をしてるいから、お切米(春四分の一、夏四分の一、秋半分)が出ても、金を一分(米一斗分)にも替えることができなくて、ただ割符を持ち帰るだけ、博奕でもしなければ金ぐりがつくまいともっぱらの噂。
一. 小石川に住んでいる座頭の悪党が、先日市ヶ谷で召し捕られたときのこと。長谷川平蔵の役宅へ引だされた座頭が、与力に会いたいという。
で、与力が何気なく側へ寄ったら、しがみつかれ、狂ったように肩やほうぼうへ食いつかれた。同心があわてて十手で座頭を打ちうえて引き離したよし。
仲間もなく、自分だけがお仕置になるのは心のこりで噛みついたという。
この座頭が働いたかずかずの悪事の一、二の例をあげると、離縁したいと思っている人妻を預かってただちに女郎として売り払ってしまうとか、麹町四丁目の無尽茶屋で日がけ無尽があったとき、店の前であばれるので若い者がとりおさえ、日がけ無尽に来たのなら二階へあがれというと、日蔭無尽は法度のはず、とゆすりをかけたりするよし。
座頭は女房連れで浅草馬道の蕎麦屋で蕎麦をとったが、その前に女房のほうが銭箱へそっと代金を入れておく、で、蕎麦やの亭主が蕎麦代を請求したら、銭はすでに払ってある、銭箱にこよりをつけて印をしたのがそうだという。銭箱を改めると、なるほどこよりのついた銭がある、そこで目が見えないのをいいことに、とかなんとか因縁をつけて三分(一両は四分)もゆすりとったとか。女房も悪で、夫婦していろんな悪事をやっていたらしい。
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