ちゅうすけのひとり言(63)
先手・2の組へ潜入した盗賊側の間諜の悦三(えつぞう 35歳)がかかわった火盗改メの組頭の名簿を調べていて、新発見をした。
いや、先手・2の組のことではない。
火盗改メの増役と、目黒・行人坂の大火まわりのつながりである。
【参照】2006年6月1日[目黒・行人坂の火事]
焼け出された当時の江戸市民が明和9(めいわく 迷惑)な年の大火とも呼んだ目黒・行人坂の火災につき、『徳川実紀』は、こう、記している。
明和9年2月29日 此日、未刻(午後2時)すぐるほど、城西目黒行人坂大円寺といへる寺より失火。
折ふし南風つよく吹きおこり、ほのほ所々に飛びちり、白金、麻布、西久保、桜田より郭内にうつり、和田倉、馬場先、日比谷、神田の御門、評定所、伝奏衆の旅館、宿老、少老の邸宅あまた焼けうせて、本町、石町、神田、下谷、浅草、千住の村里までやけひろごりしに、酉時(午後6時)本郷菊坂町より別に又火おこり、駒込、千駄木。谷中のあたりにうつり、東叡山にゆけのぼり、心観院殿の霊牌所をはじめ、仁王門、山王権現の社より、谷中、本村にいで、夜あけてやうやうにしずまり、もとの火は翌日申中刻(午後5時)いたりてやみぬ。
およそこの災にかりし所、幅一里(4km)にこえ、長は四五里(16~20km)に及び、焼死せしものは四百余人とぞ聞えし。
火元の大円寺は調べの結果、火の気のないところから出火したということで、放火の疑いが濃かった。
つまり、火盗改メに期待がかかったのである。
このときに在任していた火盗改メは、
本役(中野監物清方(きよかた 300俵)
役 明和8年(1771)7月29日(49歳)
免 明和9年(1772)3月4日(50歳 卒)
役宅 神田橋門外
組頭 弓の4番手(与力5騎 同心30人)
組屋敷 目白台
助役
長谷川平蔵宣雄(のぶお 400石)
役 明和8年(1771)10月17日(54歳 )
役宅 南本所三ッ目
組頭 弓の8番手(与力5騎 同心30人)
組屋敷 市ヶ谷本村町
見てわかるように本役の中野は、火事の5日後に病死しているということは、その前から病床にあったか、あるいは家屋敷が焼失したショックで突然死したか。
長谷川の南本所の役宅は火焔を浴びていない。
ふたたび『実紀』。
明和9年3月6日 先手頭長谷川平蔵宣雄盗考察を命せぜらる。中山主馬信将をもこれに加へらる。
本役・中野の病免・役辞退届はもうすこし前にすで呈出されていたようにもおもわれる。
火事のごたごたで、それどころではなかったのかもしれない。
本城、西丸、二ノ丸は必死の防火で無事だったとはいえ、老中、若年寄の官舎はほとんど焼けてしまっていたのである。
放火犯の探索は、町民たちの不満をそらすためにも、焦眉の急であった。
あわてて、長谷川宣雄を本役に据え、先手組頭から、
助役
中山主馬信将(のぶまさ 2100石)
役 天明9年(1772)3月6日(40歳)
役宅 小川町裏猿楽町
組頭 鉄砲(つつ)の19組
組屋敷 市ヶ谷五段坂(与力5騎 同心30人)
屋敷も組屋敷の被災していない者から選抜するだけでも難儀であったろう。
(不精をして、この時の先手組頭たち全員についての被災は、まだ調べていない。いつか報告したい)
懸命の探索にもかかわらず、放火犯人の目星はつかなかった。
幕府は、火盗改メにムチをあてるかのにように、
3月22日(『実記』)
先手頭蒔田八郎左衛門定賢昼夜市中を巡視して、盗賊を考察すべしと命ぜらる。
いや、実際にいろんな形での犯罪が多発もしていたろう。
増役
蒔田八郎左衛門定賢(さだかた 1800石)
役 明和9年(177)3月22日(39歳)
役宅 小川町広小路
組頭 弓の4番手
組屋敷 目白台(与力10騎 同心30人)
つまの、中野将監清方が率いていた組の後任の蒔田定賢に、大事である、責任をはたせと命じたともいえる。
もっとも、組屋敷の目白台が火勢の圏外であったせいもある。
余談だが、目白台には先手・弓の組屋敷が3ヶ所ある。
(目白台にあった先手・弓の3つの組の組屋敷)
もっとも東側(右端)は、ある史料から、弓の2番手の組屋敷と判明した。
のちに、長谷川平蔵宣以が率いた組である。
中と左端が弓の4番手と6番手の組屋敷であることはわかっているのだが、どちらがどちらかは、いまのところ、断定する史料がない。
蒔田定賢は、5ヶ月後の明和9年8月15日に増役を解かれている。
つまり、放火真犯人が、長谷川宣雄組によってあげられ、宣雄の慎重な取調べにより、確証がつかめたための、蒔田組の解任とみたい。
その月日は確定はできないが、4月から6月のあいだではなかろうか。
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