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2011.08.08

辰蔵のいい分(11)

(たっ)はん。目ぇ、さましぃ---」
遠いところから呼びかけられたような気がし、辰蔵(たつぞう 14歳)は意識をもどした。

ずきんをとって剃りあげた青い頭の月輪尼(がちりんに 22歳)の瓜実形のととのった顔が見下ろしていた。
「御師(おんし)---」
(ゆき)と呼ぶ約束やったんおへん?」
澄んだ目がゆっくりと微笑んだ。

「あれは、夢の中での約束では---?」
はんだけに洩らした、仏門に入れてもらう前の名ぁでおます」
「すると、、ゆき---と呼びかけたのは---?」
「はい、きちんとうけとめてたん、裸躰が応えてましたやろ」
「夢ではなかった---」

なんとなく月輪尼から艶っぽい感じをうけた。
比丘尼の略装である.白っぽい中根衣(なかねげ)に、桜色の腰巻をまいているからだとわかった。

月輪---さま。腰巻が色っぽい」
「ときとどき、おんなに戻りとうなるときがおますねん。そないなとき、巻いてみたりして---」
「おんなに戻る---?」
はんみたいな、可愛らしい子に出会うたとき---」

の唇が招く形に丸まり、両手をひろげた。

辰蔵がとびこむと、抱いたまま倒れた。
帯をはずしていた辰蔵の前はひらききっていた。

「よそにいうたら、あきまへんえ」


辰蔵の顔つきが変わりました」
遅く帰ってき、すぐに床へ入った平蔵(へいぞう 38歳)の左横へ、黙ってすべりこんだ久栄(ひさえ 31歳)が、脚をからませ、甘えた。

「どう変わった---?」
「1年前の明るさが戻り、さらに、これまで感じなかった男っぽさが匂うようになりました」
「おんなでもつくったかな---?」
「難儀なおなごでなければよろしいのですが---」

朝まで、久栄は自分の寝所へ引きあげなかった。

翌朝。

鉄条入りの木刀の振っていた辰蔵の脇へあらわれた平蔵が、
布施十兵衛良知 よしのり 41歳 300俵)のご息女---なんというたかな---?」
丹而(にじ 13歳)どのですか---」
振る腕もとめずに応えた。

「そうじゃ、その丹而どのに、婿が内定したそうじゃ」
「それは、重畳---」
「それがな、おぬしと同い年の14歳での---」
「別におかしくはございませぬが---」
あいかわらず、腕はとまらない。

「まあ、婿入りは3年先になるそうじゃが---」
「拙には、なんのかかわりもございませぬ」
父親を無視して振りつづけた。

(これは、間違いなく、新しいおんなができておる。奈々(なな 16歳)熱も冷(さ)めたらしいな)

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