おまさ、[誘拐](3)
盗賊・〔荒神(こうじん)〕の助太郎(すけたろう)と平蔵(銕三郎 てつさぶろう)とのかかわりは、ざっと昨日、さらえておいた。
聖典『鬼平犯科帳』に、助太郎のむすめの〔荒神(こうじん)〕のお夏(なつ 25歳)が登場してくるのは、文庫長編[炎の色]をもって嚆矢(こうし)とする。p138 新装版p133
【ちゅうすけのつぶやき】お夏が、「通り名(呼び名ともいう)」を変えてくれていたら、出生の地とか、いろいろ類推ができるのだが、〔荒神〕では、近衛河原の荒神口の店の〔荒神屋〕で生まれたか育ったかしたとしかおもえない。それだと、一味の者たちに隠しておけなかったとも邪推してしまう。
お夏だけではなく、父親の助太郎当人が顔をみせるのも[炎の色]が最初である。
読み切り短編の連作形式である『犯科帳』とすると、どれが先、どれが次という見方は不自然で、次から次へとユニークな盗人(つとめにん)をくりだす池波さんの創作力に、読み手としては感嘆していればいいことはいうまでもない。
そうなのだが、おまさと助太郎のえにし、お夏とおまさのきっかけのつくり方にも目を配っておくべきであろう。
おまさは17歳のときに、〔盗人酒屋〕の店主の父親・〔鶴(たずがね)〕の忠助(ちゅうすけ 享年51歳)と死別する。
【参照】2009年11月30日~[おまさが消えた] (1) (2)
「流れづとめ」の忠助はかつてのゆかりで、盗賊の首領・〔法楽寺(ほうらくじ)〕)の直右衛門(なおえもん)と親しくしていたので、忠助の歿後、おまさは直右衛門の手くばりで〔乙畑(おつばた)〕の源八(げんぱち)一味の引きこみとして鍛えられた。
一人前のおんな賊になったおまさは、銕三郎がいた京都にあこがれ、荒神さんへの参道口に木綿類の店〔荒神屋〕をかくれ蓑にしていた助太郎のところに身を寄せ、名古屋での仕事のときに、連絡(つなぎ)役・〔夜鴉(よがらす)〕の仙之助(せんのすけ)にしびれ薬入れの酒で躰の自由を奪われ、レイプされたという、まさに唾棄したいような記憶があった。
〔荒神〕の助太郎一味にいたのは16,7年前だから、もしかしたら当時10歳になるかならぬかの少女であったお夏に会っていたかもしれないが、おまさにはその記憶がない。
【参照】2009年9月13日~[同心・加賀美千蔵] (1) (2) (3) (4) (5) (6)
とすると、お夏は別腹の子だったのであろうか。
いつ、どのようにして「おんなおとこ」に転じたのであろうか。
男を受けいれなくなるのは、まるでボロ人形でも抱いていめような無残なあつかいをうけた結果であることが多いとはいわれているが……。
[炎の色]に描かれている世をすねたような人生観は、どこからきたのであろうか。
本格派の初代・〔三河(そごう)〕の定右衛門(さだえもん)に鍛えられたというが、どんなしつけであったのだろう?
疑念と興味はつきない。
| 固定リンク
「080おまさ」カテゴリの記事
- おまさ、[誘拐](2012.06.19)
- おまさ、[誘拐](12)(2012.06.30)
- おまさ、[誘拐](11) (2012.06.29)
- おまさ、[誘拐](10) (2012.06.28)
- おまさ、[誘拐](9) (2012.06.27)
コメント