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2005.03.18

〔網虫(あみむし)〕のお吉

『鬼平犯科帳』文庫巻16に収録されて題名になっている女賊[網虫のお吉]
おまさが密偵になる前に、引きこみ役として〔苅野(かりの)〕の九平(60に近い)を2度ほど助(す)けたときに、一味にいた〔網虫(あみむし)〕のお吉を知った。
(参照: 〔苅野〕の九平の項)
(参照: 女密偵おまさの項)

216

年齢・容姿:35歳だが、骨が細いせいか、すっきりした躰つき、皺ひとつない顔で、5つほどは若く見える。
生国:武蔵(むさし)国江戸(現・東京都23区内の下町のどこか)

探索の発端:〔苅野(かりの)〕の一味からはなれ、江戸で休養をしていたお吉をは、琴師・歌村清三郎(53歳)に見初(みそ)められて後妻に入っていた。
雨宿りしていた火盗改メ同心・黒沢勝之助(40歳)が招き入れられ、お茶をだしに姿をみせたお吉が見つかり、それから黒沢の強請りがはじまった。
平右衛門町の河岸道にある船宿〔井ノ口屋〕から出てきた黒沢とお吉を認めた同心・小柳安五郎が尾行、不忍池のほとりにある出合茶屋〔月むら〕へ入るのをたしかめ、店に身分を明かした隣の小部屋へしのんだ。
黒沢は、お吉の躰をさいなみながら、〔苅野〕一味の盗人宿を白状させようとしていた。

結末: 黒沢同心は切腹。琴師とのやすらかな生活を思い絶ったお吉は、品川宿で旅装をととのえて、いずこかへ逃走。

つぶやき:16歳のときに、江戸でも名の通った指物師の父親が逝き、つづいて母親も病死したあとのお吉は、男にだまされ、さんざんなぐさみものにされた末に、大坂で放りだされた。蜘蛛(くも)の異名でうる〔網虫(あみむし)〕という「通り名(呼び名)」は、お吉の骨がないようにからみついてくる躰から、男につけられたのであろう。
その後、小働きの盗人に仕込まれて盗みの道へ入った。〔苅野〕一味で引きこみ役をつとめたが、躰の不調を訴えての休養中に、黒沢同心に見つかった。
お吉のような女にとって、琴師・歌村との平穏な生活は、なにものにも代ええがたく、黒沢同心に会わなければ、そのまま、一生を送れたかもしれない。が、過去の清算はいつかはさせられるものでもある。
〔苅野(かりの)〕の九平は、相模国足柄上郡苅野村の出生。
2人で出てきて小柳同心に見つかった船宿の店名になっている〔井ノ口〕の「井ノ口」村も、足柄上郡苅野村の近くにある。池波さんは、吉田東伍著『大日本地名辞書』から首領・九平の「通り名」の〔苅野〕のひろい、ついでに「井ノ口」もいただいた。

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コメント

おや、やっと、おまささんにつづいての、女賊の登場ですか。

個性的で、悪の魅力を備えた女賊はたくさんいるのですから、もっと頻繁にご登場願いたいものです。

もっとも、あたしの可愛い、〔小房〕の粂八さんに秋波を送るような女賊は許しませんよ。

投稿: 岩井町裏店 おこん | 2005.03.18 09:00

>おこんさん

おっしゃることは、重々、心得ております。
しかし、いかんせん、女賊の生国は聖典に、ほとんど記されていないのです。

今後とも、せいぜい、生国探索に心がけますゆえ、気長にお待ちください。

そうそう、ニフティが大英断で、ブログ、これまでの30MBまでは無料(会員に限る)から、上限を50MBにあげました。

これで、文庫表紙写真、地図などつきで紹介できる盗人数が250人から、450人に増えました。あと1年は大丈夫です。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.18 09:36

お久しぶりです。
今、丁度16巻をもって通勤しております。

何事も「因果応報」ってことでしょうかね。
悪い事をすると必ず良心が痛む。
そしていつか仕返しが来るかも知れない…と思っているから、引き寄せてしまうのかなと。

ちょっと思ってみたり。

投稿: KEI | 2005.03.18 11:01

>keiさん

おや、もう第16巻ですか。
かなりのスピードですね。

お吉の件は、功名心の強い黒沢同心がいたから、せっかくつかみかけた平穏な生活を捨てざるをえなかったのでしょう。

「因果応報」ともいえますが、「吉凶はあざなえる縄」といいたいですね。

また、おあそびにいらしてください。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.18 12:16

「鬼平犯科帖」に現れる女賊は、今思い出すだけで
20数人おりますが、盗人になるには各々人には言えないつらい過去を背負っているようです。

勿論男の盗人も、平和な暮らしの中から盗人になったりはしてませんが、今と違ってあの時代は女がひとり
生活していくのは難しかったですね。

それでも、中には盗人稼業にとっぷりつかり、それなりに楽しく奔放に暮らしている女賊もおりますが、
お吉のように人並みの幸せに目覚めながら、どうしても消せない過去のため、はかなく幸せを失っていく
女賊をヒロインとした「盗人探索日録」を読むのは
何となくせつなくて。

投稿: みやこのお豊 | 2005.03.18 17:05

網虫のお吉を演じた風祭ゆきさん、さすが濡れ場を演じたら他の女優は形無しです。 「山吹屋お勝」も演じていますが色気がありますね。

投稿: edoaruki | 2005.03.19 20:32

>みやこのお豊さん

女賊にきびしい運命を背負わすのは、おまさを引き立てるねらいもあるのかも知れませんね。

>edoaruki さん

スカパーなどでテレビを観ている人の指針ですね。

投稿: ちゅうすけ | 2005.03.20 15:01

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