〔高山(たかやま)〕の治兵衛
『鬼平犯科帳』文庫巻20の巻頭へ置かれている[おしま金三郎]で、〔牛尾(うしお)〕の又平一味が手入れされたとき、逮捕をまぬがれた2人のうちの1人が、この〔高山(たかやま)〕の治兵衛。もう1人は女賊おしま。
年齢・容姿:50がらみ。小肥り。両眼は瞳が見えないほどに細い。おだやかな口のききよう。
生国:近江(おうみ)国浅井郡(あさいごうり)高山村(現・滋賀県東浅井郡浅井町高山)。
「高山」といえば、飛騨・高山をはじめ全国に10カ所以上もあるのに、「姉川支源草野川の源」(『大日本地名辞書』)にある谷奥のここを選んだのは、『蝶の戦記』など、姉川の合戦のロケーション取材の予習で、池波さんが同辞書に目をとおしたときに記憶したとは推量したからである。もちろん、〔牛尾〕の又平、〔瀬田〕の虎蔵を近江出身と見ての地縁なのだが。
探索の発端:女賊おしま(この篇では27,8歳)が、〔牛尾〕一味の探索にかかわる不祥事で火盗改メの同心をお役追放になり、麻布・田島町の鷺森明神社(氷川神社 港区白金2丁目へ合祀)傍らで〔豆腐酒屋]の亭主になっている松浪金三郎のところへやってきて、〔牛尾〕の又平の実弟〔瀬戸(せと)〕の虎蔵が、又平の逮捕に功績のあった小柳安五郎の命を狙っていると告げた。
じつは、〔牛尾〕の又平の右腕といわれた〔高山〕の治平が、仕掛けを大きくみせるために、おしまに吹き込んだこしらえごとだった。
結末:〔高山〕の治兵衛に金で雇われた浪人者たちは、松浪金三郎を襲った者も、小柳安五郎に切りかかった者たちも、鬼平にあっさり斬られたのみならず、後者の場合には、居合わせた治兵衛も捕縛され、死罪。
つぶやき:事件の現場にかならず来あわせる鬼平の勘ばたらきのみごとさに感嘆すべきか、話がうますぎることに眉をひそめるべきか。ファンとしては躊躇することなく前者を取るだろう。
居酒屋をたたんで上方へ流れた金三郎が、仕入れに京へのぼった南鍋町2丁目の〔玉章堂〕の番頭に、女といっしょにいるところを見かけられる結末は、あざやか。女は、なんとしても金三郎に添いとげたかったおしまである。
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コメント
最後に平蔵が「男と女とはおもしろいものじゃ」と言っていますが、男と女の心の機微が良く表れていると思います。
「仕事の為に女を騙す男」と「男の為に仲間を裏切る女」 松波金三郎は「女に理は通らぬ」おしまの気持ちを解ろうとしなかったのですね
おしまにとって、金三郎は可愛さあまって憎さが百倍だったのでしょう。
でも愛憎は紙一重といいます、おしまは常に
もしかしたらという期待を心に秘めていたのでしょうね。
おしまさん 想いが叶って おめでとう!
投稿: みやこのお豊 | 2005.05.09 00:10
>みやこのお豊さん
>「女に理は通らぬ」
平蔵の---というより、池波さんの女性観ですね。
しかし、社会で活躍することの多い現代女性を、そうとばかり極めつけてはいけない、ともおもいます。
まあ、建前はいくらそうであっても、人間が感情の動物であることはあらそえませんから、社会行動上は、自分はなるべく感情を抑えながら、相手の感情に配慮して---ということでしょうか。
投稿: ちゅうすけ | 2005.05.09 07:20