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2005.05.04

引き込み女お元

『鬼平犯科帳』文庫巻19に収録されている[引き込み女]のヒロイン。〔乙畑(おつはた)〕の源八一味にいたとき、いまは密偵のおまさが同僚であった。

219
(参照: 〔乙畑〕の源八の項)
(参照: 女密偵おまさの項)

年齢・容姿:順当に推移すれば、寛政10年(1798)春の事件となるから、おまさより2つか3つ年下のお元は37,8のはず。池波さんのイメージでは、34,5歳の感じ。
肉置(ししお)きゆたかで愛嬌があったが、いまはほっそりと痩せている。
生国:江戸・浅草阿部川町(現・東京都台東区元浅草)

探索の発端:築地川に架かる万年橋から川面を見つめているお元を、密偵のおまさが見かけ、あとをつけると、南鍋町2丁目(現・中央区銀座5丁目)の袋物問屋〔菱屋〕の通用口へ消えた。さっそくに〔菱屋〕を見張る見張り所が設置された。
上野・池之端仲町へ買物に行くお元をつけたおまさは、不忍池端の茶店で、さも偶然に出会ったように装って声をかけ、お元がいま、〔駒止(こまどめ)〕の喜太郎(45歳)の女となり、〔菱屋〕へ引き込みに入っているが、養子店主・彦兵衛(30歳)に駆け落ちをもちかけられて悩んでいると打ち明けた。

結末:引き込みをするはずのお元がひとりで逃げ出しているのも知らずに押し入ろうとした〔駒止〕一味は、待ち構えていた火盗改メに逮捕。死罪であろう。
ただ一人、捕り方の網をくぐり抜けて逃げおうせた助(す)けばたらきの〔磯部(いそべ)〕の万吉は、のちに、江戸へ立ち戻ったお元を刺殺し、三十間堀へ捨てた。

つぶやき:養子店主の彦兵衛だが、いじめがひどいとはいえ、お元を連れて駆け落ちした先に、どんな窮乏生活が待っているか、予想もできないようでは、こころもとない。

それはそれとして----。
文庫巻4[血闘]ほかで、おまさは密偵になるとき〔乙畑〕一味を鬼平へ売り、一味は処刑されたように書かれている。
ところがこの篇では、お元は〔乙畑〕の源八が病死(p269 新装版p278)し、一味が解散したために〔駒止〕一味へ加わったようになっている。
おまさにしても、父親の〔鶴(たずがね)]の忠助が亡くなったとき、〔法楽寺(ほうらくじ)〕の直右衛門との話し合いで〔乙畑〕一味に入れられたが、その後、幾人もの首領の下で引き込みなどをし、長谷川平蔵が火盗改メの本役をい命じられた天明8年(1788)10月には、ふたたび〔乙畑〕一味にいて、先述のように、一味の情報を火盗改メに売っている。
(参照: 〔鶴〕の忠助の項)
(参照: 〔法楽寺)の直右衛門の項

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112東京都 」カテゴリの記事

コメント

おんなの端くれのおこん、としては、駆け落ちのようなすごい誘いをかけてもらいたいもんだわ。

相手が粂八つぁんなら、喜んで付いて、いく、いく。

粂さんでなかったら? うん、もじもじそぶりで、話だけは聞いてはみる。
けど、まあ、断るね。

投稿: 柳原岩井町裏店 おこん | 2005.05.04 10:25

不自由な江戸時代
お元が危険の予想される江戸に舞い戻り殺されるのは不可解であるが
むかしの人は遠目が効いて数百メートル離れても何処の誰か識別できた。 むかしは今のようにマスコミは発達しなかったが噂がすぐ広がる仕組みになっていて、夫婦でない男女が一緒に歩いていてもすぐ判り噂の種になった。 
そしてそこの名主などに密告する制度になっていたから出女・入り鉄砲が厳しく監視されていたから女一人で他所に逃げることは難しかったのではないか。 
プライバシーのない時代に一旦逃げて江戸に舞い戻ってきたのは男が恋しいのではなく田舎では住めなかったからだろう。

投稿: edoaruki | 2005.05.04 13:21

>裏店 おこんさん

おこんさんのように、遊びの精神の持ち主---言葉をかえれば、小説家のような空想力の主---の書き込みは、読み手を楽しませてくれます。
今後とも、よろしく。

>edaruki さん

うーん、そういう考え方もありますかねえ。
いささか断定的にすぎるような気がしないでもありません。

女だって無宿人はいたわけですし、いい女であれば、かくまう男だってできたでしょうし。
通行自由のお遍路だっていたわけでしょ。
池波さんは、お遍路を一夜引き込みに使っていますね。これ、卓越したアイデアだと感心しています。
江戸のきまり(法規)が、全国に及んでいたわけでもないでしょうし。各藩それぞれですから。

ま、考え方はいろいろですね。

投稿: ちゅうすけ | 2005.05.04 16:54

edoarukiさんのコメントをずっと拝見していて、いったい、何がおっしゃりたいのか、よくわかりません。

もし、ご自分のお考えに固執なさりたいのでしたら、ご自分のサイトで発言なさればよろしいのではないでしょうか。

インターネットで発言なさる場合は、前の人のコメントを発展させるような発言でないと、乗ってゆけません。

西尾先生がジッと我慢なさっているのを見かねて、余計な差しで口でした。

投稿: 文くばり丈太 | 2005.05.04 19:16

引き込みのベテランであり、幾多のおつとめを
してきたお元が盗人の掟と彦兵衛との間で、
やつれるほどに悩むのは、お元は心根が優しかったのですね。

ひとりで江戸を逃げおおせたのに、危険を承知で、また舞い戻って来たのは、彦兵衛の事が、
心配で恋しかったから。

そんな哀切な女心の性だと私は思いたいです。

投稿: みやこのお豊 | 2005.05.04 23:36

 初めまして。
 実にすばらしいサイトです。
 鬼平がいっぱい・・・いや登場する盗人がいっぱいで、それに文章表現がが本当にすばらしいです。
 原作の中で、作品によっては登場人物に不一致な部分があることを書かれていますが、「大川の隠居」「流星」に登場する「友五郎(浜崎の友蔵)」にも矛盾というか不一致が見られますよね。でも、そんなことはどうでも良いことで、平蔵ほか登場人物の人情の機微・・・何とも言えない深いものがあって・・・。
 この作品も「お元」のやるせないほどの女の情があふれている・・・ 「みやこのお豊」さんの書かれているとおりの、そんな作品だと思います。

投稿: Sakuragi | 2005.05.05 00:29

>sakuragi さん。

ようこそ、いらっしゃいました。
ここは、池波ワールドを楽しむためのブログです。池波ファンなら、どなたでもご参加歓迎。

ただ、シンプルに、シンプルに---と心がけていますので、余計な装飾は一切省略。正確で充実したコンテンツのみがウリのブログです。
こんな変わったテンプレートがあるよ、といわれても。、コンテンツをミスリードするようなものには目もくれません。

とにかく、コンテンツ優先。それも寿命の長いものを。

sakuragiさん。これからもしょっちゅう、書き込みしてくださると、うれしいです。

投稿: ちゅうすけ | 2005.05.05 03:33

sakuragi様

初めまして、みやこのお豊です。

「引き込み女お元」のコメントを、読みながら
いろいろなお考えの方がいらっしゃると、思っておりましたが、sakuragiさまが私と同じお考えとの事、うれしくなりました。

私は自分が女性の為か、「鬼平犯科帳」の中でも、特に女性が主人公のストーリーに、魅せられてしまいます。

またブログでお会いいたしましょう。
今後とも宜しくお願いいたします。

投稿: みやこのお豊 | 2005.05.05 08:58

文くばり丈太さん、考え方はいろいろ
わたくしは何も自分の説に固執しているわけではありません。 好き嫌いの感情もあるでしょう。 むかし一緒に逃げようとした店の主人に惹かれたかも知れません。 しかし田舎は町よりも住みづらいと言ったまでです。 あなたの話しはわたくしの説を立証してくれたと感謝しております。

投稿: edoaruki | 2005.05.05 09:38

>みやこのお豊さん
 はじめまして。レス・・・ありがとうございました。
 鬼平犯科帳には沢山の女性が登場していますね。σ(^ ^)は男ですから、五郎蔵、伊三次に思い入れがありますが、登場する女性の生きざまといったものに魅かれます。
 例えば久栄・・・妻とはかくあるべきでしょう。/(^ ^;) おまさ・・・胸の奥にしまいこんだ平蔵に対する熱き思いが泣かせます。仙台堀のおろく、笹やのお熊婆さん・・・その他にもたくさん女性が・・・それぞれに皆魅力的です。
 で、みやこのお豊さんは・・・京のお豊(おたか)からのハンドルネームなのでしょうか? この女性も平蔵が溺れるほど実に魅力的です。
 こちらこそよろしくお願いいたします。
 またブログでお会いいたしましょう。

投稿: Sakuragi | 2005.05.05 16:24

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